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歌舞伎、落語も経済の道具に。現代のコロナ禍に被る水野忠邦の政策

水野は、歌舞伎が風俗を乱す“感染源”であると捉えていたので、芝居町を市中から隔離して“感染”を防ごうと企図した。これに対し遠山は、歌舞伎役者が一般人と異なることは誰もが知っていることであり、市中近くに芝居小屋があっても悪影響はないと主張する。 当時の歌舞伎役者はいわばファッションリーダーであるので、町人が歌舞伎役者の真似をしないという遠山の主張には若干無理がある。ただ、現代の芸能人と違って、当時の芸人の身分は低く、真っ当な稼業ではないと思われていた。歌舞伎役者は憧れの対象である一方で「河原者」として卑賎視されることもあったから、遠山の強弁が成り立つ余地もあった。もっとも水野からすれば、本来は身分卑しい歌舞伎役者の真似を町人がしていることが問題なのであるが。 江戸幕府12代将軍徳川家慶も遠山の意見に理解を示したが、結局、翌天保13年正月には水野が猿若町(現在の浅草六丁目)への移転を強引に決定した。それだけでなく同年7月には演目の規制も行い、淫らな内容の芝居を禁じ、勧善懲悪を主題とするよう強制した。まさに江戸の“ポリコレ”である。 ポリコレを名目にした感情的なバッシングが経済と文化を萎縮させる可能性には留意しておきたい。

今週のフルネス

“ポリコレ”を盾としたエンタメ・ 風俗業界バッシングには注意せよ
1980年、東京都生まれ。日本中世史を専門とする歴史学者。’16年に刊行された『応仁の乱‐戦国時代を生んだ大乱』(中公新書)は、48万部を超えるベストセラーとなり、歴史学ブームの火つけ役に
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