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元NHKアナ・藤井康生「喋ってくれない力士たち」から話を聞き出す技術

「我慢」が引き出した歴史に残る名言

――相撲とは離れますが、有森裕子さんがアトランタ五輪で銅メダルを取って「名言」を残しました。その時のインタビュアーは藤井さんだったんですよね。 藤井:インタビューで有森さんは「前のバルセロナ五輪で銀メダルを獲得したんですが、自分自身『勝負にいけなかった』という反省を持っていた。そこからアトランタに臨んで、結果は銅メダルだったけれども、『勝負にいけた』という実感があったので納得している」といった話をしてくれていました。インタビューが進んでいくと、彼女の内側から感情が込み上げて来るような雰囲気があって、涙で言葉が途切れるようになってきました。そして、一瞬黙ったんです。 ――短いインタビュー時間ということもあり、次の質問をしたくなりますね。 藤井:でも私はそこで待ったんです。すると彼女から「初めて自分で自分を褒めたいと思います」という言葉が出てきたんですよね。 ――次の質問をしていたら出てこなかった言葉ですね。 藤井:放送中に黙るのは怖いんですが、我慢も大事です。

自分の範囲の外にいる人といかに喋るか

――普段から心がけていることはありますか? 藤井:日常の会話にも意識を向けることです。今こうやって、ツバキングさん(筆者)と話すときも、会話を意識します。インタビューも会話ですからね。 ――放送席での解説者とのやりとりも会話ですね。 藤井:北の富士勝昭さんという解説者がいます。大変な横綱で、相撲解説者としても歴史上一番すごい人だと思います。若いアナウンサーは、そんな方と放送席で並ぶと、年齢も知識の量も桁違いなので、萎縮するんですよ。 ――そこを乗り越えて、いい解説を引き出さなくてはいけない。 藤井:北の富士さんは最初「なんでも聞いてくれればいいんだよ」なんて言ってくれます。でも、放送中に若いアナウンサーが解説を求めると「あ、今見てなかったから、舞の海に聞いて」なんて、はぐらかしたりするんですよ(笑)。ちょっと試しているのかもしれませんね。 ――中継でよく見かけますね(笑) 藤井:でもそこを乗り越えたら、経験も知識も豊富な人なので、勝手に面白くしてくれるんです。それができるようになるために、普段から年齢の離れた相手との会話を意識してやることも大事ですね。上司でもタイミングによってはツッコミを入れてみたり。 ――今、SNS時代は趣味や年齢の近い人ばかりで集まりがち、年齢も離れて趣味も違う人と会話をするのは大事ですね。 藤井:その通りです。自分の範囲の外にいる人といかに喋るかです。それができれば人間として大きく広がって、会話の豊かさが変わってきますね。  なかなか話をしてくれない相手から、気持ちを引き出すインタビューに、成功体験はないと話す藤井さん。しかし、その一言一言からは、私たちが仕事やプライベートでのコミュニケーションで、人から話を引き出す場面で意識できそうな心がけが詰まっていた。<取材・文/Mr.tsubaking>
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
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