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元NHKアナ・藤井康生「喋ってくれない力士たち」から話を聞き出す技術

インタビューに成功はない

――そんな中でどんな手を使って話を引き出したんですか? 藤井:手の使いようはないです。ただ、ストレートに突っ込むほど、さらに喋らなくなることはわかってきました。「今、どんな気持ちですか?」なんて聞いても、見ている人が喜ぶような答えは返ってきません。 ――質問はあらかじめ準備しておくんですか? 藤井:若い頃は準備していましたが、それがほぼ使えないとわかって、準備はしなくなりましたね。引き技のようなつまらない相撲で勝ってインタビュールームに来る場合もありますから。 ――さすがに「つまらない勝ち方でしたね」とは言えませんよね(笑) 藤井:そういうときは「だいぶ考えて立ち合いましたか?」など、聞きますね。引き技で勝っても、考えた上の作戦ということもあって、本人が「つまらない勝ち方」だと思っているかはわかりませんので。 ――力士がどう思っているか、感じ取ることが大事になりますね? 藤井:現役だと遠藤関など、感情をあまり出さない力士の場合はそれを読み取るのが大変です。逆に玉鷲関はわかりやすい。引いて勝った相撲の後に「やっちゃったよ~」と言いながら入って来ることもありました(笑)。そういう場合は「やっちゃいましたね」とインタビューを始めて、「考えて取り組んだのか」などを深掘りしていきます。 ――確かにそれだと、準備は意味をなさなくなりますね。 藤井:「相手の答えに反応しながら質問をする」のが大事です。前もって用意したものを質問するだけでは、会話になりません。力士が「立ち合い迷ったんですが」と言ったら「どんな風に迷ったんですか?」と会話を膨らませていくんです。これは、若いアナウンサーにも教えています。

どうせ「娯楽」なんだから

――長年、インタビューをされてきて、ポリシーはありますか? 藤井:子供の頃に大好きだった相撲が、仕事になってからは楽しめなくなっていました。しかしあるとき、先輩に「難しいことはいいから、あなたも楽しみなさい。見る人にとっては、どうせ娯楽なんだから」と言われたんですよ。たしかに見る人は、技術的どうこうより「勝った!やったー!」と思う人が大半なんですよ。大相撲に限らずスポーツはそうですね。 先輩にその言葉をかけてもらってからは、緊張感は持ちながらも、インタビューでは気の利いたことを引き出すように考えられるようになって、向き合い方が変わりましたね。 ――相撲を大好きなインタビュアーが、その気持ちで質問してくれれば、それがファンの聞きたいということですね。インタビューでよく聞く言葉ではなく、その人なりの言葉をを引き出したいという感覚ですね。 藤井:でも出ちゃうんです。どんな質問をしても、力士たちは「一番一番やるだけです」で逃れようとします(笑)。終盤に「優勝争いの先頭にいますが」と振っても「一番一番」なんですよ。 ――そこを、そんな風に切り込むんですか? 藤井:こっちは「そんなことはないだろ」と思いながら聞くので、力士との関係性によってはそのまま「さすがに意識するでしょう?」とか「せっかくこのチャンスだから意識してもいいんじゃないですか?」なんて切り込むこともあります。 ――かなり力士の懐に飛び込む言い回しですね。 藤井:視聴者は「失礼な奴だな」と思うかもしれませんが、力士との関係性も踏まえて、自分が悪者になるということはやります。
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「我慢」が引き出した歴史に残る名言
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Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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