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“昆虫食”は救世主か、それとも…「未来のために」という考え方がはらむ危険性

背景にある思想的なムーブメント

昆虫食 その背景には、ある思想的なムーブメントがあります。Effective Altruism(効果的利他主義)、Longtermism(長期主義)と呼ばれる哲学です。  弱冠35歳、スコットランドの哲学者、ウィリアム・マッカスキルによって提唱され、ビル・ゲイツやジェフ・ベゾス、そしてイーロン・マスクといった大富豪たちが支持しています。地球規模の課題に対する解決策を探求し、そのために巨額の投資をうながしていく活動の根拠となっています。  ざっくり言うと、いま生きている80億人の心配よりも何百年も先に生きているであろう何兆もの人類のために良いことをしましょう、というもの。たとえば、地球ではまかないきれないので火星でも人が住めるようにしようとか、新型コロナのワクチンがより広範に行き渡るために自由な市場で売買できるようにしようとか。

「未来のために…」という考え方がはらむ危険性

 一見すると倫理的、道徳的に正しいように見えますよね。けれども、慈善活動であることを盾に、彼らの莫大な資産をさらに増殖させる新たなシステム作りに加担させられてしまう危険もあるのですね。  ビル・ゲイツ財団が代替肉のベンチャーに莫大な金額を投資している事実からも、新たな食糧システムが構築されればビル・ゲイツの力をより強化する方向に働くのは自明の理でしょう。  これらはたいてい大富豪たちのちょっとした思いつきやビジネスチャンスに端を発します。掛け声ひとつで右往左往させられるのは、その他何十億もの人々です。 <傲岸不遜だと言わざるを得ない。莫大な富を溜め込んでは、自身による支配を強化するために新たな合意形成の方法を常に模索する神の如き大富豪たちは、何十億もの人々をあたかもチェスの駒のように扱うのだから。> (『The New Statesman』 Elon Musk’s useful philosopher 2022年11月14日 筆者訳)  このように“未来のために”と謳って今そのときに巨額の資金を調達するやり方は、決して長期的な視点(long-term thinking)によるものではないと記事は批判しています。  ひとつひとつ細かな調整を経て段階的に対処していくのではなく、劇的な変更によって人々が“そう生きざるを得ない”ような状況を作ってしまう。それが善意や正義を標榜しているからこそ厄介なのだと危惧しているのです。
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音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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