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「障害者手帳の不正利用」で炎上した“レンタル障がい者”当人を直撃、その思惑は

双極性障害で手帳2級「ひきこもっていると鬱になる」

 レン障さんは現在21歳、実家でアルバイトをして生活している。小学校低学年の時にADHDと診断され、高校生の時に双極性障害で2級の障害者手帳を取った。双極性障害とは、気分が高まったり落ち込んだり、躁状態と鬱状態を繰り返す病気だ。  高校生の時には躁状態になり「全国の高校生を集めた音楽フェスを開きたい」と、何百人もの有名人にメッセージを送った。「皆が協力してくれると信じて疑わなかった」が、その後に鬱がくると、その時の行動を思い出して引きこもってしまった。    高校卒業後はフリーター生活をしていたが、双極性障害の症状は出続けていた。「2、3週間ベッドの上で泣いてたかと思えば、突如マックが食べたくなり、山を越えて(マックがある)町に出かけて買いに行くとか。2年間で8回も引っ越していた。躁を繰り返すので」と語る。  話題になった投稿については「ある意味“ネタ”のつもりだった。色んな経験を聞いたり、友だちを増やしたりしたいなと思った。面白い人たちと、インターネットを通じて会えたら」と気軽な気持ちで書き込んだという。  現在は「多少躁かもしれない」。しかし「レンタルのスケジュールちゃんと合わせることができて、生活には影響していない。昔は予定が入っていると、そのことばかり考えて何も手につかなかったが、今は来月まで一日いくつもの依頼で埋まっていても、平常心で過ごせている」と落ち着いているようだ。  昨年行った離島でのアルバイト生活での経験や、「レンタル障がい者」を行ううちに、気にならなくなってきたと言う。  4月4日時点で、受けた依頼は31人。「リピーターが多く、女性は少なめ。障害当事者で、自分も手帳を持っていますという人は8人いた。あとは大学院生や役者などいろいろ。レンタルの理由は『話をしてみたい』が一番。今後も依頼がある限りはやる」と言う。  レン障さんは「そもそも鬱もあって大変な人間なんだから、面白いことしていた方が楽じゃん。家で引きこもっていても鬱になる。動いていたほうが楽じゃん。交通費タダで動き回れてラッキー」と笑う。  店を出る際、彼が机にマスクや携帯を忘れたが、筆者が指摘し事なきを得た。彼は注意が散漫な所も多少あるようだが、それはお互いさまだ。

障害を持っている依頼者と友達に

川沿いを11km散歩するという依頼。左は利用者の「にわかーず」さん

川沿いを11km散歩してほしいという依頼。左は利用者の「にわかーず」さん

 批判の中で多かったのは「割引目的の不正利用」というものだ。実際に彼をレンタルした人は、施設等の割引目的だったのだろうか。 「にわかーず」さんは40代男性、投稿が出てから1週間後にレンタルした。依頼は「レン障くんの行きたい所を散歩したい」というもの。「友達を作りたい」「どんな人なのか知りたい」という理由からだった。  1時間遅刻したレン障さんさんを待つ。待ち合わせ場所の近くに川があり、そこから散歩開始だ。11kmも歩き、途中で団子を買って食べたり、2人で川べりに行って尾崎豊を歌ったりして楽しんだという。  にわかーずさんは生まれつきの難聴だ。しかし障害者手帳は取得していない。「耳が悪いので、突然話題が変わると、話についていけない」というが「レン障くんもレン障くんで『ごめん、今ボーッとしてて聴いてなかった』ってなりがちでウケた」と、ADHD特性を隠そうともしないレン障さんとの散歩は、リラックスできたとのこと。  印象に残ったのは、散歩しながらレン障さんが言ってくれた「難聴を開きなおれるやつに悪いやつはいないからな。開き直りが大事」と言う言葉だ。  にわかーずさんは「最近働き始めたこともあり、『聴こえない』ということが怖くなっていた」と言う。でも「レン障くんといる時間は開き直ることができていた。開き直ることを許してくれ、本音で語ることを受け容れてくれた」と、自分らしくいられる時間だったと言う。  にわかーずさんは「レン障くんはもう、友達です」と言う。歩いた後は近くの居酒屋へ行き、2人で飲んだ。後日2人はレンタル依頼とは別に、カラオケに行って今度はブルーハーツを歌ったとのことだ。
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相手の弱い部分をさりげなくカバーする、レン障さんの気遣い
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