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福山雅治、全盲役を好演『ラストマン』はどこまでリアルなのか? 視覚障害の当事者たちに聞く

視覚障害者が「見る」こともある?

 ところでブラインドライターズのスタッフは「テレビを観る」「画面を見る」と表現することがある。ん? 視覚障害者が「見る?」 「福山さんが『見るって言うのは調べるって意味です』ってわざわざ言ってました。よく私たちが『テレビを観る』って言うと『“見る”の?』って聞く人がいます。自分の感覚では『聴く』も『見る』もいっしょなんです。耳も鼻も、目の代わり」(直美さん)  車いすの人も「駅まで歩いていく」と言ったりする。目で見るだけが「見る」ではないし、二本の足を交互に出すことだけが「歩く」じゃないんだなといつも思う。そしてスタッフからはこんな声が……。 「コロナにかかって鼻が利かなくなったとき、より見えなくなった感覚がしたんですよね」(直美さん) 「わかる! 私は食卓に並んでいるご飯がなんなのかが分からなくなりました」(よりこさん) 「焼けているかどうかが分からなくて、料理が困りました」(直美さん)

「あとは、周りの人たちが一緒に働こうと思ってくれるかどうか」

視覚障害者 ドラマでは、視力以外の感覚からいかにたくさんの情報が得られるかを教えてくれている。一方で、皆実の能力に関してはかなりずば抜けて描かれている。誰もが彼のような能力があるわけではないし、最先端の機器を持っているわけでも、使いこなしているわけでもない。私たちと同じように視覚障害者も「人それぞれ」だ。 「今までドラマで、あまりに超人的に描かれるといやな気持ちになることがあったけれど、福山さんなら受け入れられるの、不思議です。あと、普段『できなくて済みません』ってまごつくことが多いじゃないですか。でもあんなふうに堂々としていいんだって思いました」(よりこさん)  低頭するのではなく、開き直ってもいない。皆実は「これができる」「これができない」という線引きがハッキリしていて、それを的確に伝えている。そういう意味では、皆実は理想像かもしれない。最後に、印象的な皆実のセリフをご紹介したい。 「昔と比べれば、テクノロジーの力によって、多少は自由に動けるようになりました。あとは、周りの人たちが一緒に働こうと思ってくれるかどうか。それだけなんです」  IT技術は障害をサポートする最強のツール。使いこなせば、できることは限りない。 <TEXT/和久井香菜子>
ライター・編集、少女マンガ研究家。スタッフ全員が何らかの障害を持つ会社「合同会社ブラインドライターズ」代表。著書に著名人の戦争体験をまとめた『わたしたちもみんな子どもだった 戦争が日常だった私たちの体験記』(ハツガサ)などがある
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