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「“家族のため”と必死の思いで…」家族旅行を強制する父親が気付けなかったモラハラ思考。それは誰のための旅行なのか

本当に家族のことを思っていれば家族のニーズを反映したはず

 Nさんは、自分なりに一生懸命考えて「いい旅行」になるようにと家族旅行を計画していました。ただ、仕事などが忙し過ぎて、一緒に旅行を楽しみたい肝心の家族とのコミュニケーションが取れていませんでした。  そのため、家族旅行の計画には、Nさんの希望(目いっぱい予定を詰め込んだ旅行)しか反映されませんでした。  Nさんにとっての「いい旅行」は、他の家族にとっても本当に「いい旅行」だったのでしょうか?  長年連れ添ったパートナーであっても、一緒に住んでいる家族であっても、皆それぞれ違う人間です。旅行の楽しみ方一つとっても、その感じ方は、人や状況によっても全く異なります。  たくさんの観光名所を巡ることに楽しみを感じる人もいれば、美味しい食事だったり、色々な体験活動をしてみたい人もいるでしょう。まだお子さんが小さければ、目いっぱい予定が詰め込まれた旅行よりも、余裕を持ったスケジュールでゆっくりできる旅行に魅力を感じるかもしれません。  Nさんが本当に家族を大切に思っているのであれば、自分の価値観や感じ方・考え方などを一方的に家族に押し付けるのではなく、家族みんなのニーズをもっと知ろうとしていたら、違う結果になっていたかもしれません。

目的が「自分の計画を達成すること」にすり替わってしまっていたNさん

 また、Nさんは、自分で一生懸命に家族旅行の計画をしたがために、家族旅行の目的が「家族で楽しむこと」ではなく、「計画を達成すること」に変わってしまっていました。そのため、自分の計画通りに家族旅行が進み、自分の期待通りに家族が反応しないとがっかりし、不機嫌になったり、上下関係を持ち出すなどして、相手の行動をコントロールしようと(=モラハラ)していました。  Nさんは、一体、誰のため、何のために家族旅行をしていたのでしょうか? 家族が本当に喜ぶことが大事なのであって、家族が「喜ばなければならない」と押し付けることは加害です。加害者の頭の中の妄想に付き合わされる被害者からしたら、本当に地獄です。Nさんのご家族は、Nさんを喜ばせるために家族旅行をしているのではありません。  家族旅行当日は「計画を達成すること」をゴールにしないで、「みんなが無理なく楽しめること」がゴールなのだと考えられたら、様々なアクシデントにもいちいち「なんで思い通りにならないんだ」とイライラせずに、良い雰囲気で旅行を終えられたのではないでしょうか?  もし、家族みんなのニーズ(例:ゆっくりしたい)と自分のニーズ(例:色んなところへ行きたい)が一致しない時はどうすれば良いのでしょうか?  その場合は、自分のニーズを家族に伝え、適切に依頼すれば良いと考えます。決して、いつも家族みんなのニーズを優先し、自分のニーズを我慢しなければならないというわけではありません。  なぜなら、自分自身のニーズを適切な方法でケアすることは、人間関係の持続可能性において非常に重要なことだからです。(「『なんで俺の面倒を見てくれないの』妻を母親代わりにしてしまう男たちの”甘え”の正体」参照)
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自分のニーズを強要せず、適切に伝えるためには
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DV・モラハラなど、人を傷つけておきながら自分は悪くないと考える「悪意のない加害者」の変容を目指すコミュニティ「GADHA」代表。自身もDV・モラハラ加害を行い、妻と離婚の危機を迎えた経験を持つ。加害者としての自覚を持ってカウンセリングを受け、自身もさまざまな関連知識を学習し、妻との気遣いあえる関係を再構築した。現在はそこで得られた知識を加害者変容理論としてまとめ、多くの加害者に届け、被害者が減ることを目指し活動中。大切な人を大切にする方法は学べる、人は変われると信じています。賛同下さる方は、ぜひGADHAの当事者会やプログラムにご参加ください。ツイッター:えいなか

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モラハラ、パワハラ、DV
人間関係は“ことば”で決まる


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