仕事

田舎者にとって、年収がアップする転職など「幻」でしかない/猫山課長

会社を去りゆくエースが見せた表情

 田舎に暮らしながら、大幅に年収を上げたければ、大都市圏の会社に転職するしかない。そして、その大きな会社の支店などが地元にあればいいけど、田舎には支店など置く価値がないから、あるわけがない。  となれば、都市部へ移住するしかない。年収を大きく上げるためには、移住までしなければならないのが田舎の現実だ。  単身赴任であれば二重生活となり、金銭面でも精神面でも大きな負担がかかる。  これまで近くで生活していた両親は少なからず不安になるだろう。捨てられたと感じ、家族関係にヒビが入ることも容易に想像できる。もちろん配偶者や子供への負担も大きい。  田舎に住むことは、転職で豊かになる可能性にフタをすることに等しい。田舎に住むだけで、ステップアップできる選択肢はほぼなくなってしまう。普通の田舎モンがそれを克服するには、移住までしなきゃならない。捨てるものが多すぎる。  退職を宣言した彼は、溌剌とした表情で働くのかと思っていたら、全然違った。表情はなぜかこれまで以上に暗い。どうやら退職について上役からのストップがかかっているらしい。 「役員は退職を理解してくれたの?」 「それが……、引き止めをされていまして、最終的な合意に至っていないんです。もちろん退職は権利ですから押し通せますが、いい関係で終えたくて」 「部長は、お前が都市部の最前線でやっていけるのか不安がっていたよ。親心だろうな。気持ちはわかるよ」  新たな環境は生き馬の目を抜くような業界だ。能力があるといっても通用するとは限らない。部長もそれを危惧しているのだろう。  そして家族の問題。親を置いていく負い目や、妻と子供が環境の変化に耐えられるかという不安。  彼を覆う不安という影が、まるで形をもっているかのように感じられる。恐らく2年以上は、その不安が彼の隣人で居続けるのだろう。田舎モンにとって、転職で年収アップのハードルは高すぎる。それはもう、幻想にしか見えない。
金融機関勤務の現役課長、46歳。本業に勤しみながら「半径5mの見え方を変えるnote作家」として執筆活動を行い、SNSで人気に。所属先金融機関では社員初の副業許可をとりつけ、不動産投資の会社も経営している。noteの投稿以外に音声プラットフォーム「voicy」でも配信を開始。初著書『銀行マンの凄すぎる掟 ―クソ環境サバイバル術』が発売中。Xアカウント (@nekoyamamanager
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