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「放置すると近所の目が怖い」誰も欲しがらない田舎の“負”動産という呪い/猫山課長

山林を相続した“普通の会社員”の憂鬱

 田舎の家や、その土地の処分だけでも頭が痛いのに、山林や農地などを受け継いだらどうなってしまうのか。考えたくもない話だ。  数年前、先代から山林を相続した顧客がいた。彼は婿養子としてその家に入り、後継ぎとなることが決まっていた。  先代が亡くなった後、先代が所有していた山林を相続により受け取ることになった。しかし、彼は山の管理などしたことがない。彼は都市部から田舎に来た、普通の会社員だった。彼とこんな会話をしたのを思い出した。 「山を相続されましたが、管理はどうされるのですか?」 「人に頼むと高いので、近所の人に教わりながらやってみようと思います。右も左もわからないですが……」 「山って、放置するわけにはいかないのでしょうか? 別に誰かが入るわけじゃないでしょうし」 「そんなことをすると周りから何を言われるかわからないんですよ。近所の目がありますから、管理しないわけにはいかないんです」  山林だけでなく、農地も同じだ。  例えば、田んぼや畑が連なっている土地において、1枚だけ耕作放棄地となった場合、そこには草が無秩序に生えてしまい、周りの農地に雑草の種を撒き散らしてしまう。  害獣の棲家になる可能性もある。だからこそ、農地の所有者は耕作をしなくとも草刈りなどの管理を行なっているのだ。  お金を産まない土地に、ほぼ永遠にコストをかけなければならない。加えて、農地は簡単に譲渡できなくなっている。  住居も同じだ。誰も住まなくなった家は、急速に傷んでいく。倒壊まではいかなくとも、何かが剥離して落下してくる可能性はある。  また、空き家にはよからぬ人物が住み着くことさえある。管理されない不動産は、地域にとって目障りかつ不都合な存在だ。それは許されないものとして扱われてしまう。

田舎の負動産は“ババ抜き”と同じ

 それでもその土地に住んでいれば、まだなんとか管理はできる。何かあってもすぐに対応ができる。しかし、田舎から都会に移り住み、両親や親族から地元の不動産を相続した場合、どう管理したらよいのか?   ある日、町内の人からこんな電話がかかってくるかもしれない。 「ちゃんと管理してもらわないと困る。地域で迷惑している」  そう言われて、あなたは無視できるだろうか?  終わりのない管理を求められる不動産などさっさと縁を切りたい。それこそタダでもいいと願う。しかし、衰退する田舎の不動産など誰も欲しがらない。住むにも運用するにも適さない地域の不動産など、実体化した悪夢に過ぎない。  もはや田舎に憧れた、迂闊な都会人が買ってくれるのを待つばかりだ。田舎の不動産はババ抜きになる。最後に持っていた人が、無限地獄に落ちることになる。
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負動産は「時限式の呪い」
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金融機関勤務の現役課長、46歳。本業に勤しみながら「半径5mの見え方を変えるnote作家」として執筆活動を行い、SNSで人気に。所属先金融機関では社員初の副業許可をとりつけ、不動産投資の会社も経営している。noteの投稿以外に音声プラットフォーム「voicy」でも配信を開始。初著書『銀行マンの凄すぎる掟 ―クソ環境サバイバル術』が発売中。Xアカウント (@nekoyamamanager

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