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いまこそ議員定数を増やすべきだ<著述家・菅野完>

日本の国会議員の数は、「少なすぎる」

 しかし事実として、元来、日本の国会議員の数は、少なすぎるのである。図表1をご覧いただきたい。先進各国の人口と国会議員議席数を比較したものだ。この種の議論では、よく、アメリカ合衆国が事例として取り上げられるが、合衆国は各州をはじめとする地方自治体の権限が強く、また大統領制の国家であることに留意が必要だ。日本の現状を把握するためには、日本と同じく議院内閣制を採用する各国と比較することがより適切だろう。
図表1

図表1

 そこで図表1では先進国のうち議院内閣制を採用する各国を取り上げた。表のように、人口100万人あたりの議席数は、ドイツ=8.85議席、イギリス=9.66議席、スウェーデン=33.49議席となっている。一方、日本はわずか3.72議席。スウェーデンがそうであるように、この指標は人口が少ない国家であれば高まる傾向があるものの、しかしそれでも、日本との人口差が4000万人しかないドイツと比べても、日本の指標が低すぎることがわかるだろう。  図表2は、国家予算と議席数を比較したものだ。どの国の議会も、議会である以上、予算審議こそ最重要課題だ。予算審議を実りの多いものにするためには、議員一人当たりの予算審議額が少なければ少ないほどよいこととなる。そこで、図表2では国家予算の金額を議席数で割り込み、「一議席あたり、どれだけの予算額を審議しているか」という指標を算出してみた。ドイツ=26億ドル、イギリス=20億ドル、スウェーデン=7億ドルに対し、日本の衆議院議員は、一議席あたり41億ドルもの予算を審議していることとなる。これでは日本の予算審議が形骸化するのも当然といえよう。
図表2

図表2

議席数を減らすことは不健全

 やはりこれ以上議席数を減らすことは、不健全だ。30年前に「平成の政治改革」がスタートして以降、日本は議席数を減らし続けてきた。平成5年には511あった衆院の定数は、いまや465議席にまで縮小している。 実に46議席もの減少だ。それでも「一票の格差」が是正しきれたわけではない。やはり「議員定数の削減」ありきの改革には限界があるといわざるを得ないだろう。  参議院選挙における「一票の格差」は衆議院選挙よりも極めて深刻だ。昨年の参院選の場合、一票の格差が最も大きい選挙区は神奈川県の3.032倍で、次いで宮城県の3.025倍、東京都の3.014倍と、実に3都県が3倍を超える結果となっている。また、3倍にはいかないまでも2倍を超えているのは、新潟県の2.937倍、大阪府の2.876倍、千葉県の2.765倍など18道府県に上る結果となった。最高裁が、格差が2倍を超えた09、12、14年の衆院選をいずれも「違憲状態」と判断したことを踏まえれば、参院の「一票の格差」がいかに深刻か理解できよう。こうした状況に対応するため、参議院では、選挙区における「合区」や、比例区における「特定枠」などの対策をとっているが、どの対策も、姑息な弥縫策でしかない。やはり参議院でも大胆な選挙制度改革は待ったなしの状態なのだ。 「平成の政治改革」から30年。この30年は日本が停滞していた時期に綺麗に重なる。GDPは伸びず、財政赤字は膨らむ一方。平均賃金は先進国で唯一、30年前より下がっているという不名誉な結果さえ生まれている。こうした背景から、この30年間の選挙制度改革議論は、どうしても「国会議員の数を減らせ!」との声に引きずられがちであった。世の中が縮小していくのだから、それに合わせて国会も縮小せよと世論が要求するのだ。  しかし、もはやその路線は限界である。縮小均衡を狙うばかりでは、民主主義の根幹が歪んでしまう。そろそろ勇気をもって「議員定数を増やすべきだ」と声を大にして言うべきタイミングだろう。 <文・図表作成/菅野完 初出:月刊日本2023年9月号
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月刊日本2023年9月号

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内田 樹 「歴史の暗部」を語り継げ
安田浩一 再び虐殺が起きないと言い切れるか
高橋公純 私は命が尽きるまで懺悔の心を持ち続ける

【特集②】神宮外苑再開発を即時中止せよ
斎藤幸平 私利私欲のための再開発は許されない
高山住男 デベロッパー・三井不動産の正体
本誌編集部 公開書簡「神宮外苑再開発の即時中止を求める」

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