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帰ってきた「ベイスターズ史上最強の4番打者」。いまも古巣と日本を愛する理由とは

美しいジェット風船。そしてレフトスタンドからはサプライズが

1998年の遺伝子

1998年、優勝時の胴上げ

 8月29日、甲子園での対タイガース戦に訪れたローズは、横浜、東京を中心に、新潟からも駆けつけたツアー参加者40人とともに、レフトスタンドビジター応援席最上段から観戦を楽しんだ。  高校野球の夏の甲子園大会のため、長期ロードに出ていたタイガースが久々に甲子園に帰ってきた試合ということも重なり、試合は満員札止め。  4万人を超えるタイガースファンがぐるりと囲むなか、ローズは、愛娘に甲子園での思い出を細かに説明していた。ローズの表情は、あの頃、グラウンドでは決して見ることのなかった柔らかな父親の表情だった。  試合が進むと、ローズがソワソワしはじめた。 「黄色の風船は確か後半だったよな。5回? 6回?」  感染症の影響でジェット風船は禁止されていることを告げると、ローズは膝を叩いて悔しがった。すかさずスマホで画像検索をすると、黄色の風船一色に染まったスタンドが、どれほど美しく見えたのかを隣に座る娘に熱弁していた。  当時の写真を娘に見せながら思い出を語るローズの姿は、さながらツアーのコンダクターのようにも見えた。  試合終盤、ベイスターズ応援団がローズの当時のテーマソングを奏でた。ファンの声援がひと際大きくなると、ローズも自分の応援歌を叫んだ。 「カモーン、ローズ、ビクトリー!」  現役時代はファンと触れ合うことに積極的ではなかったローズが、ファンと一緒にスタンドから拳を振り上げた瞬間、ローズとファンはひとつに重なって見えた。

ローズから牧。受け継がれるベイスターズの伝統

 9回表、先頭の代打・楠本泰史がヒットで出塁、不振に苦しむ主将の佐野恵太が同点2ランを放ち、ローズが「気になる選手」と公言している続く牧秀悟が、勝ち越しホームランを放つと、ボルテージは最高潮に達した。ツアーの参加者が興奮しながら、片言の英語で叫んできた。 「ミスターローズ! サンキュー! 今のはマキの23号HRです! サンキュー!」  横浜から駆けつけたローズの目の前で、ローズが自分を重ねる4番で二塁手の牧が、ローズの現役当時の背番号と同じ「23」号のホームランを放って逆転勝利。相川七瀬さんからは「ボビー! 私の父の夢を叶えてくれてありがとう!」とメッセージが届いた。  試合は逆転勝ち。ミラクルが幾重にも重なった夜は、1998年の夏のようだった。 撮影/ボビー・ローズJAPAN TOUR事務局 写真/時事通信社
1973年、神奈川県生まれ。日大芸術学部卒業後の1997年、横浜ベイスターズに入社、通訳・広報を担当。'02年・新庄剛志の通訳としてMLBサンフランシスコ・ジャイアンツ、'03年ニューヨーク・メッツと契約。その後は通訳、ライター、実業家と幅広く活動。WBCは4大会連続通訳を担当。今回のWBCもメディア通訳を担当した。著書に『大谷翔平 二刀流』(扶桑社)ほか
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