ライフ

“伝説の暴走族”幹部が司法試験に合格するまで。「18歳になったら特攻服を着るのが気恥ずかしくなった」

残り97%の受験生も白バイのように振り切れば…

金﨑浩之氏

金﨑浩之氏

 司法試験は今なお説明不要の難関資格だが、当時はロースクールが整備されていない時代。司法試験合格率は全受験生の2〜3%といわれる狭き門だ。だが金﨑氏はひるまなかった。 「私は“低偏差値高校”を中退し、法学部卒でもありません。暴走族として、深夜に騒音を出して人々に迷惑をかけてきた過去があります。当時白バイを振り切ったように、残り97%の受験生も振り切れば、司法試験に受かる。やってやろうじゃないか、という意欲が湧いてきました」  多くの受験生と同じく、不合格を幾度も経験したのち、金﨑氏は6度目の受験で合格を手にした。迷惑をかけ続け、司法試験を目指すことを喜んでくれた母親は、残念ながらその瞬間に立ち会えなかった。 「5度目の受験あたりで、末期がんだった母親が亡くなりました。合格後、母が背中を押してくれたような気がして、司法試験合格者の欄に自分の名前が載った新聞を持って墓参りに行きました」

『白い巨塔』がきっかけで医療裁判を活動領域に

 弁護士として活動してしばらくは少年事件を担当することの多かった金﨑氏だが、冒頭でも紹介したように医療裁判を活動領域にしている。活動の場を移したきっかけは意外なものだった。 「少年事件は過去の自分を見ているようで、勿論やりがいはありました。ただ、あるとき『白い巨塔』(原作:山崎豊子)を観ていて、そこで起きる出来事に感情移入してしまったんです。同作は、丹念な取材によって医療の闇を描く場面が多くあります。そのとき、『病院などの組織を相手にする原告(患者側)は大変だろうな』と思ったんです。同時に、弁護士の多くが文系出身で、医療知識がないことも気にかかりました。自分が大学院に入って勉強し、医学博士号を取得すれば、何か原告側に役立つかもしれないと考えました」  実際、その考えは功を奏した。 「医療裁判においては、医学論文の結論部分を引用して資料として提出するだけでは不十分です。その論文が書かれた経緯などの詳細を正確に理解していなければ、医療のプロである被告に勝てるはずがありません。なぜなら、裁判官も医学については素人であり、基本的な知識を被告や証人に確認しながら訴訟手続が進むからです
次のページ
「医療以上に司法の闇も濃い」と実感
1
2
3
4
5
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

記事一覧へ
おすすめ記事
ハッシュタグ