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“伝説の暴走族”幹部が司法試験に合格するまで。「18歳になったら特攻服を着るのが気恥ずかしくなった」

「医療以上に司法の闇も濃い」と実感

 司法と医療。双方を深く知るうえでわかってきたこともある。 「『白い巨塔』のシーンはどれも大げさな誇張などではなく、実際の医療の現場でも起こり得るというのは理解しました。ただ、この分野を知れば知るほど、医療以上に司法の闇も濃いなと実感します。  医療機関と患者の間に紛争が起きたとき、訴訟進行は病院側に寄りがちです。実際、さまざまな証拠を持つ病院に訴訟で勝つことは容易ではありません。くわえて、司法が医療機関に信をおいていることがよくわかる場面が散見されます。それは裁判所と病院が裏で手を組んで、出来レースの裁判が行われているという意味ではありません。もっと根源的な、この国を担っている者同士の信頼とでもいうのでしょうか。  それから、司法には世の中の秩序を保つ役割もありますから、医療機関を敗訴させることによる社会的な影響をさまざまな方面から検討する必要もあります。個人的な見立てでは、病院側が分が悪いときは、裁判所は和解を勧めてきます。どちらが良くてどちらが悪いという世界ではくくれないのが、司法の実際だと思います」

忘れられない裁判

 そうした事情を熟知する金﨑氏には、忘れられない裁判がある。 「循環器系の医療過誤での訴訟でした。一審は驚くほど淡白で、こちらが提出した資料以上のものを求めてきませんでした。私の見立てでは、裁判官に医療裁判の経験がないように見えました。訴訟進行は例によって医療機関寄りに進みましたが、明らかに証拠の数も質も、こちらが有利だと思われました。裁判官が和解を勧めてくることもなく結審したので、私は意外な気持ちでいました。  すると、原告敗訴の判決が出たのです。判決文を読むと、ほとんどが被告(主治医)の証言を引用していて、私が提出した証拠が検討された痕跡があまり見当たりません」  金﨑氏は心の折れかかっていた依頼人を鼓舞し、控訴にこぎつけた。
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「本気で事件を解決する姿勢がみられた」二審の裁判長
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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