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“池袋の象徴”で「24時間営業」「ロックフェス」を行う案が…どちらも幻になってしまった理由

「24時間営業」は礼を失する行為?

それが、西武グループの堤清二だ。異色の経営者として知られる彼は、経営者でありながらも同時に、辻井喬(つじい・たかし)というペンネームを持つ詩人でもあったその芸術的な感性をビジネスにも応用させた「感性経営」と呼ばれる経営手法でも注目を集めた人物である。堤は池袋で西武百貨店の経営を行うかたわら、サンシャインシティの立ち上げにも大きく尽力した。 堤は、かつて拘置所であり、絞首刑に処された人間がいるという歴史を踏まえ、「24時間営業」という盛田のアイデアは亡くなった人物に対して礼を失する行為なのではないかと考えた。そこで、再開発案の一つとして「監獄ロックフェスティバル」を開催することを考えた。

「巣鴨プリズンの跡地活用」にロックを

このアイデアはあまりに突飛にも思えるかもしれないが、「監獄ロック」は当時大流行していた映画で、「ロックの帝王」として知られるエルヴィス・プレスリーを主演に、監獄内で出会った音楽青年たちが描かれている。映画のタイトルにちなんだ主題歌「監獄ロック」の大ヒットも相まって、堤の耳にも当然その噂は入ってきていたであろう。 当時は「ロック」が反体制的な意味を強く持っていた時代である。詩人としても活躍し、現代の消費社会に対して批判的な眼差しも持っていた堤は、大胆にもこうしたロックを取り入れた、巣鴨プリズンの跡地活用方法を思い描いていたのである。 堤のこの計画は実現しなかったが、彼が回想するところによれば、この計画を実現するにあたって、彼は友人であった三島由紀夫に相談を持ちかけようとしたらしい。当時、三島は、深沢七郎の小説『東京のプリンスたち』を高く評価していた。この作品は、エルヴィス・プレスリーを愛聴する青年たちの群像劇で、堤はこの文章から当時のカウンターカルチャーである「ロック音楽」に対する三島の理解を読み取ったらしい。
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「監獄ロックフェスティバル」がもし開催されていたら…
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ライター・作家。チェーンストアやテーマパークをテーマにした原稿を数多く執筆。一見平板に見える現代の都市空間について、独自の切り口で語る。「東洋経済オンライン」などで執筆中、文芸誌などにも多く寄稿をおこなう。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社)『ブックオフから考える』(青弓社)
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