エンタメ

『M-1グランプリ2023』公式&配信の声で振り返る。令和ロマンの優勝は必然だったワケ

分析の鬼がM-1チャンピオンに!

 例年と違う状況がもうひとつ。それは、優勝した令和ロマン・髙比良くるまが誰よりもM-1を分析するタイプであるということ。 準々決勝で敗退した2020年、2021年はもとより、自らが参加した2022年、2023年でさえ、決勝進出者発表前のわずかな時間を使って現場レポート動画を配信したほどの「M-1好き」。彼らがこうして決勝に進出する以前から、令和ロマンによる客観的かつ熱のある準決勝レポートは、お笑いファンにとっての楽しみのひとつだった。いずれの動画も、早口で繰り出されるくるまのレポートを全て受け止め、打ち返す松井ケムリのすごさも感じられる。
 そんな彼らだから、寝る暇もないほど忙しい優勝翌日に、47分もの優勝報告生配信を敢行。M-1決勝当日のことを、自分たちの気持ちを交えながら細やかに報告している。自分たちのことだけではなく、大会全体にたっぷりと触れているところがさすが生粋のM-1ファン&レポーターだ。
 昨年王者であるウエストランド・井口浩之の言う「M-1は究極の客観視」(『ライブ!!今月のお笑い2〜王者の1年、どうだった?〜』1/2まで有料配信)が真実だとしたら、自分たちを「他人事」と語り、どこまでも客観的にM-1に挑んでいた令和ロマンの優勝は必然だったのかもしれない。

審査員が語るM-1 2023

 出場者本人の声をたっぷり聞いたあとは、審査員の意見も知っておきたい。決勝審査員のひとり、博多大吉は自身のpodcast『大吉ポッドキャスト いったん、ここにいます!』においてじつに1時間25分を費やし、どんな基準で採点したか、各組に対してどのように感じ、何点をつけたかを詳らかにしている。ヤーレンズに対する「(ストップウォッチの)ストップを押し忘れた。面白くて」、真空ジェシカへの「僕にはどう逆立ちしても何回生まれ変わっても作れない」という絶賛は聞いていてうれしくなる。冒頭の「今年から審査基準を刷新した」という説明も興味深いものだった。  敗者復活戦のルール変更も今年の大きなトピックだった。会場の観客500人の審査による1対1の勝ち抜き戦で、「今、この場で面白い」が尊重された審査結果によって、シシガシラが選ばれたのは気持ちのいい結果だった。「かまいたちチャンネル」の動画では、敗者復活戦の最終3組に残った中から1組を選ぶ審査員として参加したかまいたち山内健司が数組について触れている。
 たとえばさや香の「見せ算」ひとつとっても、千鳥の「すごいことしたね」「かっこええM-1したな」という評価、博多大吉の「(このネタを表現するなら)ビデオのほうが面白い」という指摘、そしてさや香・新山自身の「NGKでもやるネタ」「ハマったときの一体感がすごいネタ」という主張。さまざまな振り返りを見ると、多角的な視点を知ることができる。2023年もいろんな人の人生が垣間見えたM-1を、何度でも味わいたい。 <TEXT/釣木文恵 イラスト/まつもとりえこ 編集/アライユキコ> 【まつもとりえこ】 イラストレーター。『朝日新聞telling,』『QJWeb』などでドラマ、バラエティなどテレビ番組のイラストレビューを執筆。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身。X(Twitter):@riekomatsumoto
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。X(旧Twitter):@troookie
1
2
おすすめ記事