更新日:2024年03月08日 16:57
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「確かに愛してもいた」虐待を受け続けた女性作家が、“母を捨てる”まで

生い立ちを書くことに抵抗があったが…

 女性性の再獲得は、今なお菅野氏のテーマであり続けるという。ノンフィクション作家として、女性用風俗店の取材などを精力的に行うことも、その延長線上にある。 「剥奪された女性性をどのように取り戻すかは私のテーマでもあり、女性用風俗店というシステムのなかで、女性が満たされていく様子を知りたいと感じたんです。取材したある女性風俗店の利用者は、満たされては空になるのを絶えず繰り返す心のコップがあって、そこに水を注いでいく作業だと言っていました。私にはその表現がしっくり来たんです」  今回、初となる自伝的ノンフィクションを執筆した菅野氏にとって、この書籍がどのような意味を持つことになるか。 「最初は自分の生い立ちを書くことに抵抗がありました。自分を蝕み続けてきたものと向き合う作業はフラッシュバックとの闘いで、愉快ではありません。でも、行き場のない思いを清算するきっかけにはなったと思います。私は母を捨てました。けれども当時、確かに愛してもいたんです」  追いかけても振り向かず、けれどもしなだれかかるほどに重たくて気まぐれな愛情を傾けてもくる母親の厄介さ。書くことによって息を吹き返した菅野氏だが、その才覚は母親によって発掘されたものだ。力なき幼児に虐待を続ける母親でさえ、子どものなかに良質な種を残さなかったわけではない。自分のなかに染み渡った母親の血液の一部を入れ替え、剥奪されたものを取り戻すため、同じ悲哀を抱える者の声に耳を傾け筆を走らせる。 <取材・文/黒島暁生>
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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母を捨てる 母を捨てる

毒母との38年の愛憎を描いた
壮絶ノンフィクション

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