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オウム真理教「地下鉄サリン事件」から29年。東京地裁への問い合わせで発覚した“裁判記録廃棄”の真相

裁判記録の大切さ

 今から39年前の1985年、日本弁護士連合会は刑事記録の保存についての法律の立法過程で、最高裁や法務省などに対して要望書を提出した。その中には、こんな一節がある。 「(裁判記録は)その時代の人の営みや世相風俗を映し、諸々の社会の矛盾を反映し、(中略)訴訟記録には、判決という結論に向けて具体的になにが主張・立証されたか、そのための関係者の叡智と努力の跡がしるされている。(中略)貴重な文化遺産として、判決そのものとともに後世に遺すに値し、遺さなければならないもの」(日本弁護士連合会「訴訟記録等保存立法についての要望書」から)  裁判記録の重要性は研究者などが閲覧できることによって、初めて価値が見出される。決して、保存だけが目的ではない。利活用される前提の保存なのだ。社会に報じる、事件の研究をする。様々な形で適切に利活用され、社会へ発信されることこそが、裁判記録の重要性を導き出す最大の理由であろう。  だが、現実は前述のような検察庁の“お粗末な対応”。前出の江川氏も、「検察庁は、原則は第三者閲覧もできると定めているのに、刑事記録の閲覧はできませんと平気で言います」と利活用の困難さを指摘した。

オウム事件の風化と裁判記録など歴史的史料の活用について

 裁判記録は、長時間をかけて丁寧に真実を追求した最大の歴史的史料。積極的に利活用をしながら、事件の再発防止や教訓を導き出すことも風化をさせないための防止剤になるのではないだろうか。  昨今はオウム真理教が起こした一連の事件の風化が顕著だ。現に公安調査庁は、後継団体が「オウム事件は濡れ衣だ」などといいながら若者を勧誘しているといい、警鐘を鳴らしている。  また、SNS上ではオウムの犯行を否定するような陰謀論が出回っている。事件から時間が経つにつれて、このような虚偽の言説が増える。特に、デジタル時代ならではの課題も多い。  地下鉄サリン事件で夫を亡くし、被害者団体の代表を務めている高橋シズヱ氏は、今月18日に行われた会見で、「オウムがどれだけ人々を恐怖におとしいれたか。どれだけ優秀な人間を取り込んで犯罪に加担させたか。きちんと後の世代へ伝えられる形でアーカイブをしたいと思っています」と語っていた。

「地下鉄サリン事件被害者の会」代表世話人の高橋シズヱ氏。東京・霞ヶ関の記者クラブにて(2024年3月18日/筆者撮影)

 朝の通勤ラッシュを襲った、史上稀にみる大規模テロ事件から来年で30年。当時を知らない世代が、社会に出て活躍している。旧統一教会問題で再注目を浴びている「カルト」の実態。  再び同じ事件を起こさないためにも、“裁判記録”をはじめとする歴史的史料の積極的な“利活用”が課題であろう。 文/学生傍聴人
2002年生まれ、都内某私立大に在籍中の現役学生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴にハマり、傍聴歴6年、傍聴総数900件以上。有名事件から万引き事件、民事裁判など幅広く傍聴する雑食系マニア。その他、裁判記録の閲覧や行政文書の開示請求も行っている。
X(旧ツイッター):@Gakuse_Bocho
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