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地下鉄サリン事件は防げた!? 猪瀬直樹が語る日本のセキュリティ

麻原彰晃こと松本智津夫。地下鉄サリン事件などを引き起こしたオウム真理教を率いた彼は、今年7月6日に東京拘置所で死刑を執行され、63年の生涯を閉じた。この未曽有のテロを起こした麻原は当時40歳になったばかり。師に従って死刑判決を受けた弟子たちも、多くが30代。教団発足から11年での破滅劇だった。彼らは日本に何を残したのか。オウムと対峙し続けてきた、勇気ある識者たちに聞いた。
オウム真理教とは何だったのか?

サティアンのプラント施設。スクープによってオウムは大量のサリンを廃棄したが、警察は結局教団の暴走を防げなかった

米兵が守る“ディズニーランド”に暮らす日本人は変われない

 教団による犯罪が明るみに出る前の’91年、漫画『ラストニュース』(画:弘兼憲史)にオウム真理教を彷彿とさせる宗教団体が登場した――。予言的な原作を手掛けた作家の猪瀬直樹氏は、オウム後の日本のセキュリティをどう見るのか。  まず着目したのは、’95年元日、「サリン残留物を検出」と見出しを打った読売新聞のスクープ記事だ。前年に松本サリン事件が発生しており、教団の施設がある山梨県上九一色村で猛毒のサリンが山梨県警と長野県警の合同捜査によって検出されたことで、オウムの関与が浮上した。 「両県警はこのときようやく協働したようで、坂本弁護士事件を捜査する神奈川県警と、目黒公証役場事務長拉致事件を担当する警視庁が連携した形跡は見えない……。『広域重要指定事件』という言葉が示すように、警察には所轄という縄張りがあり、広域指定なしに合同捜査はまず行われない。縦割りを排して、平時から横の連携があれば、もう少し早く事件を解決できたのではないか」  オウムに強制捜査が入った’95年3月22日、南青山の教団東京総本部前に駆けつけた猪瀬氏は、詰めかけていた大勢のマスコミから、驚くべきことを聞いたという。 「『事前に強制捜査を知っていた』と口を揃えたのです。20日の決行予定が19日に漏れてしまい、その翌日、地下鉄にサリンが撒かれた。すると、オウムが先制攻撃した可能性も否定できない。22日に変更した強制捜査も漏れていた。『2500人もの人員を投入すれば、記者クラブが察知する』『今回、側面から関わる防衛庁は警視庁に比べてすぐ漏れる』という声もあった。そもそもスクープがあった元旦から強制捜査まで、なぜ3か月も要したのか。地下鉄サリン事件は未然に防げていたかもしれず、この間に情報が漏洩した可能性さえある」  捜査機関の連携や情報漏洩の防止は、セキュリティを確保するには必須の条件だ。 「スノーデンのリークで、NSA(米国家安全保障局)の情報収集や監視能力が群を抜いていることが明らかになったが、日本は大幅に遅れている。昨年ようやく成立した共謀罪法は、実効性に乏しい。振り返れば戦後、軽武装を標榜した吉田茂首相は『弱いウサギは、長い耳を持つ』と日本版CIAの設立に動いたが、情報の重要性を認識できない国民の前に頓挫した。戦争のない戦後日本人は、門に立つ米兵が守ってくれる“ディズニーランド”で、柵の外を見ようともせず安穏と生きてきたのです。それはオウム後も変わりません」 【猪瀬直樹】 ’46年、長野県生まれ。’87年、『ミカドの肖像』で大宅賞。’02年、道路公団民営化委員。’12年、東京都知事。近著に田原総一朗氏との共著『平成の重大事件』(朝日選書)がある <取材・文/斎藤武宏 野中ツトム・岡田光雄(清談社) 長谷川大祐(本誌) 写真/時事通信社> ― オウム真理教とは何だったのか? ―
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