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袴田事件「無罪判決の瞬間」は異例すぎる光景に。傍聴人が法廷で目撃した「涙を流す“まさかの人物”」の正体

傍聴席で涙を流す男性

静岡地方裁判所

裁判所内に入る弁護団ら/筆者撮影

 まず、「検面調書」という検察官の録取した調書について、「ねつ造」の認定事実が読み上げられた。  裁判所は、警察署における自白前日までの19日間で、平均12時間という長時間の取り調べにより、肉体的・精神的苦痛を与えていたことや、検察官が警察署に訪れて疲弊した袴田さんに取り調べを行ったことを指摘。「警察官と検察官の連携により、非人道的な取り調べによって作成されたもので、実質的に捜査機関によってねつ造された」と認定した。  國井裁判長は、筆舌に尽くしがたいほどに酷い取り調べ状況を淡々と述べていく。筆者はこの時、後ろを向いて傍聴席を見渡したところ、右後方に座っていたある男性が上を向きながら目をつぶって泣いている。  その男性の顔を見て驚いた。“平成最悪の冤罪事件”と呼ばれている、「足利事件」で冤罪被害者となった菅家利和さんだったのだ。  足利事件とは、1990年に栃木県足利市で起きた幼女誘拐・殺害事件が発端となった冤罪事件。被疑者として菅家さんが逮捕され、裁判で無期懲役の判決が確定した。しかし、後に遺留品に残っていたDNA型を再鑑定した結果、真犯人が別人であることが判明。2010年、再審無罪となっている。  逮捕当時、菅家さんも警察の取り調べで髪を引っ張られるなどの自白強要によって、犯行を認めていた。第一審公判の途中で否認に転じたものの、無期懲役の判決が確定。袴田さんも同様に、自白したものの、裁判所を信じて第一審公判で否認している。  それだけに、過去の自分に重ね合わせたのか、時折うなずきながら、何かを祈るように目をつぶって上を向きながら涙を流しつづけていた。

最大の争点であった「5点の衣類」について

 次に、「5点の衣類」について認定事実が読み上げられる。「5点の衣類」とは、事件から1年2か月後の第一審の最中に、工場の味噌タンクの中の底から発見され、死刑判決時に犯行着衣と認定されたもの。
袴田事件

検察側が証拠に提出した、発見直後の「5点の衣類」。写真の血痕は赤いが、弁護団や支援者らがみそ漬け実験をしたところ、黒色に変色していた。

 この部分が最大の争点で中心的な証拠であり、裁判所が審理で「『5点の衣類』で検察側の主張が崩れれば、全部が崩れてしまう」と言ったほどだ。 「5点の衣類」について弁護側は、1年2か月間も味噌タンクに沈んでいたにしては、血痕の色が赤すぎると主張。長期間みそに漬けると赤色から黒色へ変化するため、赤色ということは捜査機関が発見直前にねつ造したものだとしている。一方で、検察側は証拠写真のとおりに長期間みそに漬けても赤みは残ると主張した。  今回の判決では、長期間みそ漬けすると血痕は黒くなると認定され、勾留中だった袴田さんには発見直前に隠匿するのは不可能だとして、捜査機関による「ねつ造」だと断罪された。 「発見の近い時期に、(略)捜査機関によって血痕を付けるなどの加工がされ、(略)タンク内に隠匿されたもの」(判決要旨から)  また、裁判所は、実家の捜索で発見された「ズボンの切れ端」についても、「捜査機関の者が持ち込むなどして押収したと考えなければ、説明が極めて困難である」として「ねつ造」を認定した。
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弁護団や傍聴席から笑いが起きる場面も
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2002年生まれ、都内某私立大に在籍中の現役学生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴にハマり、傍聴歴6年、傍聴総数900件以上。有名事件から万引き事件、民事裁判など幅広く傍聴する雑食系マニア。その他、裁判記録の閲覧や行政文書の開示請求も行っている。
X(旧ツイッター):@Gakuse_Bocho

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