更新日:2024年11月09日 18:08
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「降りろバカヤロー」停車中に中国人男性2人に囲まれてパニック急発進した被告人が“実刑判決”となったワケ

 今年1月、東京都大田区内の幹線道路で交通トラブルになった男性をボンネット上に乗せて176メートル走行し転落させるなどした、殺人未遂と傷害の罪に問われた被告人A(28歳男性)の裁判員裁判の判決公判が10月29日、東京地裁(江口和伸裁判長)で開かれた。  10月15日の初公判で、Aは事件当時、交通トラブルに発展していると気づかず、赤信号で停車中に中国人の男性2名から「降りろ」などと迫られたことで「ヤクザ」だと思い込み、「パニックになってしまって犯行に及んだ」などとして、誤想過剰防衛などを主張していた。

“車線変更”が事件のきっかけに

東京地方裁判所

東京地方裁判所/筆者撮影

 検察側の冒頭陳述によると、事件の発端はAの車線変更をめぐる交通トラブルだという。現場は、交通量の多い3車線道路。Bさんの車が中央車線を走行していたところに、右車線を走行していたAの車が十分な車間距離を取らずに車線変更した。  BさんがAの車を避けようと左にハンドルを切ったところ、路上で駐車していたCさんの車のドアミラーと接触。BさんはAの車を追跡し、CさんもBさんの車を追うように走行した。  Bさんの車はAの車の前に入り込むなどしたが、Aは隙間を抜けてアクセルを踏んだ。その後、赤信号で止まったところで、Bさん、Cさんの車が後に続いて停車。BさんとCさんは車から降りて、Aがいる運転席側にまわり、降りてくるよう説得しながらドアノブを数回引いて窓を叩いた。  しかし、Aが降りてくる様子がなかったことから、Cさんは中央分離帯に移動して110番通報。Bさんは、Aの車の前に立ちふさがったままだったという。  青信号に変わり、AはBさんを避けながら発進しようと、左にハンドルを切った。だが、Bさんは瞬時に左側へ移動。そこで、Aは右にハンドルを切ったところ、突然制止しようと中央分離帯から飛び出してきたCさんに衝突。その後、Bさんにも衝突し、Bさんがボンネット上にうつ伏せの状態で身を乗り上げたまま、176メートルも走行したところで転落。この時、最大で時速約64kmものスピードだったという。そのまま、Aの車は走り去っていった。

被告人が「過剰な防衛をしたのか」も争点に…

 10月15日に開かれた初公判で、Aは起訴内容の一部を否認。弁護側も、Aは交通トラブルになっていたことに気づかず、Bさんらは事件当時「降りろ」など威迫してきたことから、被告人が「ヤクザ」などと勘違いし自身を防衛しようしたところ、誤って過剰な防衛行為をしてしまった「誤想過剰防衛」で減刑を求めた。  また、Cさんへの衝突については「急に飛び出してきたため、回避は困難だった」として、無罪を主張した「ヤクザか半グレなのかなと。早くここから去りたいと思っていました」(被告人質問から)  さらにAは、Cさんが道路中央の安全帯に立って携帯電話で電話している姿を見て、「仲間を呼んでいると思った」と振り返る。ただ、実際はBさんとCさんは赤の他人。Cさんは110番通報をしていただけなのだ。  一方で、検察側は冒頭陳述で、Bさんらは「Aを威迫するほどの大声を発してはいない」と述べた。第2回公判ではBさんが証人として出廷したが、この際も「私は、日本語で『事故が起きましたので降りて下さい』と言いました」と証言。Cさんも「降りろ」などと命令する言葉を発していないと証言した。  だがこれに反して、筆者は法廷内の大型モニターに映し出された、後続車のタクシーのドライブレコーダー映像から「降りろ、バカヤロー」という声をハッキリと耳にした。さらに、目撃者のEさんは証人尋問で、Bさんの当時の様子を「少し怒ったような口調だったと思います」と振り返っていた。

判決の結果は…

 そして10月29日、保釈中だったAは、収監を見越してか白い紙袋を2つ手に持ち、スーツ姿で法廷に現れた。手に持っていた白い紙袋は、荷物がパンパンに詰まっているようで重たそうだ。入廷時は覚悟を決めたのだろう、真剣な顔つき。  6分遅れて、午後3時6分に開廷。Aは証言台前の椅子に背筋を伸ばして座っている。すぐさま、江口和伸裁判長は大きな声で判決の結論にあたる「主文」を言い渡した。 「主文 被告人を懲役5年に処する。未決勾留日数中80日をその刑に算入する」  江口和伸裁判長は、「犯行態様は危険性が高く悪質なものというほかない」として、懲役5年(求刑:懲役7年)の実刑判決を言い渡した。その瞬間も、Aは表情を変えることなく、まっすぐ裁判官の方を向いていた。
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誤想過剰防衛が成立しなかったワケ
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2002年生まれ、都内某私立大に在籍中の現役学生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴にハマり、傍聴歴6年、傍聴総数900件以上。有名事件から万引き事件、民事裁判など幅広く傍聴する雑食系マニア。その他、裁判記録の閲覧や行政文書の開示請求も行っている。
X(旧ツイッター):@Gakuse_Bocho

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