アイナ・ジ・エンド、30歳で迎えた心境の変化「人とは想いがすれ違うのが当たり前」
映画『キリエのうた』で俳優デビューするなど、多彩な活動で支持を集めているアイナ・ジ・エンド。
3枚目のソロアルバム『RUBY POP』を引っ提げた全国ツアー「ハリネズミスマイル」の真っ最中にデジタルシングル『花無双』をリリースした。表題曲「花無双」は『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』の主題歌。カップリング曲「渇望」は同映画のエンディングテーマだ。30代を迎え、新たな魅力を放つアイナ・ジ・エンドに迫った。
――『劇場版モノノ怪 唐傘』に続き、第二章の主題歌も務めています。主題歌「花無双」はアイナさんが作詞作曲、河野圭さんがアレンジを手がけていますが、どんなイメージがあったんでしょう?
今回は、TKさんに作っていただいた第一章の主題歌「Love Sick」の激しい方向性とはまた違うバラード曲が良いというリクエストをいただき、バラードだったら自分の思いの丈をしっかり込められる気がしたので自分で作ろうと思いました。
デモの段階で「歪なストリングスを入れたい」っていうイメージが湧いてきて、河野さんにそういうお願いをしたんです。河野さんは王道なJ-POPのストリングスアレンジも上手で何でもできる方ですが、今回は歪なストリングスのモードでお願いしました。
――『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』のどんなところに魅力を感じましたか?
第一章と比べて念が強くて、人の内面をえぐり取っているような描写が多いと感じたので、それに負けないような曲を作りたいなと。
――「花無双」は生きることと死ぬことと愛という大きなテーマが描かれていますが、『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』に背中を押されたところがあったんでしょうか?
そうですね。「人がいなくなること」について追究したシーンがあり、「自分にとって愛がなくなるってなんだろう?」をテーマに歌詞を考えました。
死生観を感じてもらってもいいですし、遠距離恋愛でも、ペットとの別れでも、いろいろな愛に当てはまる歌詞っていうことを一番意識しましたね。
――確かにいろいろな愛に当てはまる曲になっていますよね。1番の「生きてるだけで 愛を知るの」という歌詞が2番では「死ぬまでずっと 愛を知るの」という歌詞に変化しています。この変化にはどんな想いがありますか?
生きていると愛を知ることになると思うんです。けれど、愛を失うと悲しいわけで、だったら愛なんて知らないまま死ねばよかったっていう想いを込めました。でも、結局は「死ぬまで愛するしかない」という定めについて2番では歌っています。
――そうやって愛について考える中で気付いたことはありましたか?
人それぞれ愛の懐の深さは違うので、どんな人とも1ミリは愛を交わせるなって思うようになりました。
以前は、相手の愛が浅いと感じてしまうと「もっと想いやれるじゃん」って思ったりしてたんですが、相手からしたら違うことで私に対して「もっと」って思ってるかもしれない。人とはそうやって想いがすれ違うのが当たり前だし、1ミリでも交われるならそれは立派な愛なんだろうなって思う。だから、どんな人に対してもネガティブな感情を持たなくなりました。
大人になるにつれて自分がすごく汚くてみんなが輝いて見えることが増えてきて、周りの人に対して「あんなことしてくれてたのに自分は気付いてなかった」「自分って未熟だな」って思うと同時に、感謝の気持ちを抱き始めました。
親に感謝する時期が来るのと近いと思うんですけど、周りの人に対してそういう感謝の気持ちが生まれてからは、「どんな人とでも1ミリ愛を交わせたら最高なんだ」って思うようになって多くを求めなくなりましたね。
――見返りを求めなくなったんですね。
はい。友達にもよく「変わったね」って言われます。ソロのファーストアルバム『THE END』の曲は「どうして私は右利きで左手は使えないんだ」とか「粧し込んだ日にかぎって 君には会えなかった」とかすごく小さな視点のことばかり歌っているんですけど、昨年リリースしたサードアルバムの『RUBY POP』はそういう描写があまりなくて、少しずつ大きなことを歌えるようになってきてて。それが大人になってきてるってことなのかもしれないです。
――経験や年齢を重ねることで視野が変わってきた。
そうですね。『THE END』の頃は自分のことを歌うことで精いっぱいだったので、当時のレコード会社のスタッフの方も「誰かを救ってあげるとか無理に歌わなくていい。完全に私小説のアルバムにした方がいいと思う」って背中を押してくれてたんですよね。私小説は出し切れた感覚があるので、自然と人のために歌いたいって思うようになりました。

「愛がなくなること」をテーマにした歌詞
1ミリでも愛を交わせたら最高なんだ

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