更新日:2012年12月18日 11:03
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「東電OL殺人事件」にハマる20代女子たち

東電OL 97年に起きた東京電力女性社員殺害事件。強盗殺人罪で無期懲役が確定したネパール国籍の元飲食店員ゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者の再審請求審で、被害者の体から採取された精液が、DNA鑑定の結果、同受刑者以外の男性のものと判明――15年前に世を騒がせた、通称「東電OL殺人事件」の容疑者に冤罪の可能性が高まってきた。 「すわ、ゴビンダやっぱ無罪か!?」「園子温監督が東電OLの話を映画化するんだよね? 早く見たい!」「うう、何でみんなこんなに東電OLが好きなんだ……」  このニュースを受け、ツイッター上でも東電OL話が盛り上がっていたのが先週のこと。意外だったのが、事件当時にはまだ小学生~高校生だった20代女子が「東電OL殺人事件」に強く興味を惹かれていたことだ。被害者女性が初の総合職として東京電力に入社したキャリアOLで、夜は円山町で売春婦をしていたという事実は、世間を驚かせ、「高学歴キャリア女性」の生きづらさを象徴する事件として様々な書籍も刊行された。とはいえ、事件当時にはまだ子供だった20代女子が、当時39歳だった東電OLに今なお興味を惹かれるのは何故なのか。「東電OLマニア」を自負する20代女子たちに話を聞いてみた。   まずは「女としてのゴールはどこにあるのか」という普遍的なテーマを感じて共感したという女性。 「とにかく先が見えない感じに共感した。仕事を頑張ればゴールなのか、結婚すればOKなのか、子供を産まなきゃやっぱダメなのか……。どんどん行き詰まっていくなかで、最後に“女”の部分をウリに、文字通り売春をして、自分の女としての存在価値を確かめようとした気持ちは、自然なことにすら思えた」(28歳・公務員)   慶応女子高校→慶応大学→東京電力という被害者のキャリアに、自分を重ね合わせたという、東京大学出身の女性も。 「大学の授業で佐野眞一の別の本を読むことがあって、それをきっかけに『東電OL殺人事件』も読んで、興味を持った。エリートだった彼女が自暴自棄になって堕ちていくときの“加速度感”が、すごくわかる……。勉強でも恋愛でも常に100点を目指して頑張ってきて、大学も東大に入った。なのに、就職はできないわ男には振られるわ……。自暴自棄になっていた時期だったので、自分と重ね合わせて読んでしまった。常に100点を目指していると、発想が0か100かしかないからこそ、いきなり逆に振れることもあるのかな、自分もこうやって加速度的に堕ちていくのかも……と思った。働くようになった今も、考え方は変わっていない。仕事も恋愛も100点を取りたい。正直、相手なんて誰でもいいから、とにかく結婚したいし、子供も産みたい。だって、結婚しないと“合格点”とは言えない気がするから」(25歳・広告)   事件を機に「やっぱり女は容姿だ」と悟ったという女性は、「自分に娘が出来るとしたらバカでいいからかわいい子がいい」と、極論を主張。 「事件を元に書かれた、桐野夏生の『グロテスク』のなかの高校時代の描写に共感した。クラスの中に厳然としたヒエラルキーが存在している感じ。女のヒエラルキーを決定する要素は、勉強、育ち、そして容姿。そのなかで勉強の持ち点は驚くほど少ない。いくら努力して勉強しても、勉強で稼げるポイントなんてたかが知れていて、ヒエラルキーの上にはいけない。必死に勉強して、大学附属の名門高校に高校から入学しても、小学校のときから通っているようなエスタブリッシュメントな存在には総合点で敵わない。でも、超絶にかわいければ一発逆転でヒエラルキーの上にいくことが出来るという図式。それは社会に出て仕事を始めても変わらない。努力しても、容姿や育ちというどうにもならない要素で女の序列は決まってしまう。飽くまで事件を基にしたフィクションだということはわかっているけど、東電OLが実際に感じていたであろう、女としてのジレンマを言い当てていると思った。自分は努力して勉強してきたし、仕事でも出来る限り頑張っているつもり。でも、自分に娘が生まれるとして、『かわいいバカ』か『頭のいいブス』のどちらかしか選べないとしたら、絶対に『かわいいバカ』を選びます」(27歳・出版)   なかには、事件現場である渋谷区神泉を巡り歩くという“東電OL詣で”をしたツワモノまで! 「佐野眞一の『東電OL殺人事件』のなかで、東電OLがコンビニのおでんを一品ずつ器に入れてもらって、汁をたくさん入れて、ダイエットのために汁で空腹を満たすところがぐっときた。自分も太ることに対して異常な恐怖感があり、コンビニではおでんやところてん、豆腐などカロリーのほとんどないものしか買わない。仕事でいくら頑張って結果を出したとしても、少しでも太ったら女として“負け”という気持ちがある。ハマりすぎて、本を片手に事件現場の神泉を巡ったほど。殺害現場である木造アパート“喜寿荘”にも行った。被害者女性が売春をする前におでんを買っていたセブンイレブンにも行った。でも、さすがにそこでおでんは買えなかった。あの汁を飲んだら、何か呪われそうで……」(26歳・通信)   「負けたくない」「ゴール」「合格点」……。誰と戦っているのか、何に勝たなければいけないのか……見えない敵と戦っている彼女たちの姿は滑稽ですらある。女の序列のなかで、負けたくない、勝ちたい、100点を取らなきゃ!ともがく女性たちの不幸は「序列のなかで勝ち続けなければ生きている意味がない」という価値観から解放されない限り、解決されない。東電OLの持つ不幸が「女に生まれたことそれ自体の不幸」とでもいうべき普遍的なものだからこそ、東電OLよりも20歳以上年下の女性たちを今なお惹きつけるのかもしれない。  取材・文/日刊SPA!編集部
東電OL殺人事件 (新潮文庫)

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