女性はクルマで男を判断した…速いクルマ、カッコいいクルマに乗ってればモテた80年代クルマモテ論
―[道路交通ジャーナリスト清水草一]―
80年代の若者といえば、何はともあれクルマ。いいクルマに乗ることは、若者のみならず男の憧れであり、今では考えられないステイタス。そんな時代に青春を謳歌したカーライフの申し子による80年代クルマ回顧録(文/清水草一)
私が免許を取ったのが1980年。つまり80年代カーライフの申し子と言ってよかろう! なにせ当時のクルマってのは一種のスター。カーライフといえば、それは誰のものであってもスターの生活みたいなもので、地味だろうが貧乏だろうがみんな関心を持ったし、話題の中心だったんだよ!
というか、当時の若い男の生活は、クルマを中心に回っていた。生活における太陽のようなものですね。
そして特筆すべきは、女性たちもクルマを非常に重視していたという事実だ。今じゃ考えられないが、当時の女性は、クルマを男の価値の一部として見ていたのだ!
70年代に書かれたフランチェスコ・アルベローニの名著『エロティシズム』は、女性が男性を判断する材料の一つとしてスポーツカーを挙げているが、80年代の日本でも女性はクルマで男を判断した。もちろん全部じゃないけど、今でいえば学歴とか就職先くらいの重みはあった。東大卒ってだけで、誰だって一目置くよね? いいクルマに乗ってるってことは、それくらい重要なことだったのだ。
では、女性がなぜ男のクルマを重視したか。
いいクルマで迎えに来てくれる男は、一流企業の社員みたいなもの。そういう男と付き合うことは、女性にとって自分の価値を高めてくれる要素だったのだ。よって女性たちは、いいクルマに乗っている男を、それだけでかなりプラス評価した。思えば夢のような時代でした……。
では、男たちはモテるためにいいクルマに乗ったのか?否である。それはオマケのようなもので、男がいいクルマに乗りたがったのはズバリ、スピードへの情熱からだった!
当時、高級車への憧れもあるにはあったが、なんといっても重要だったのは速さだ。高級車なんてオッサンが乗るもので、若者はひたすら速いスポーツカーに憧れた。今でこそスポーツカーは女性に一番嫌われる車種だが、当時はもっともモテたのだ!
ただ当時は、今と比べても日本は貧乏で、国産車はドングリの背比べ的に遅く、速いクルマを買うのは極めて困難。よって多くの若者は、「速そうに見えるクルマ」でその欲望を満たした。それがスペシャルティカーである。
私が最初に乗ったクルマは、日産ガゼール。シルビアの兄弟車で、ベースはバイオレットという平凡なセダンだったが、カッコが速そうだったのでヒット! 私も1800ccの平凡なエンジンをブチ回して爆走しました。
⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1365314
そんな我々の前に彗星のごとく現れたクルマ、それが初代ソアラだった。光り輝くカッコいいスタイルに、2800cc170馬力のエンジンを積み(当時にすれば想像を絶する大馬力)、お値段は298万円! 当時、国産車で約300万円なんて目ン玉が飛び出るほど高かった。日本なんてそんなもんだったんだよ!
ちなみに外車は雲の上の存在で、視界に入ってませんでした。
私は周囲の友人たち同様ソアラに憧れまくり、父親にも「ソアラはいいよ~」と言いまくった。その甲斐あって父はホントにソアラを買った! 別にねだったわけじゃなく、オッサンではあっても父も男。カッコいいクルマへの憧れは十分あったのだ。そういう時代だったんです。
父のソアラが納車されると、大学生だった私はさっそく借りて、ゴルフサークルの練習に乗っていきました。
ソアラを見た女子大生たちは大コーフン! 「乗りたい! 乗りたい!」と殺到した。ウソじゃないよ、ホントだよ! 私は「4人までしか乗れないんだよね~」ともったいぶって、定員いっぱい女子大生を乗せて、そこらをグルっと一周した。本当の話です。
80年代、速いクルマはモテたわけですが、速く走ることもまたモテた。今じゃクルマで飛ばすなんて「バッカじゃないの?」「怖いから降ろして!」と言われるのがオチだが、当時の女性は飛ばさない男を腰抜けと見なし、飛ばす男を高評価したのだ。今とまったく逆です。
私は地味なおとなしい性格でしたが、ハンドルを握ると人が変わるタイプで、「何人たりともオラの前を走らせねえ!」と爆走しました。いつでもどこでも全開で飛ばしていたのですが、当時の女性はそれを大変喜んでくれました。ゆっくり走っていると「なんで飛ばさないの?」とせがまれたし、「前のクルマ全部抜いて!」と言われたこともある。隔世の感……。
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1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中
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