官僚もビックリ! トンネルを抜けた先の異空間のごときループに日本の道路行政の闇を見た
―[道路交通ジャーナリスト清水草一]―
「酷道」という言葉がある。酷(ひど)い道と国道を掛け合わせた造語で、難所を持つ国道のことを指す。その代表的一例が、長野県上田市から静岡県浜松市までを結ぶ国道152号線だ。
なぜ152号線が酷道かというと、日本列島を貫く「中央構造線」という大断層地帯の直上にあるからだ。現在でも152号線は、地蔵峠と青崩峠の2カ所で、あまりにも地質が脆くトンネルを掘れないために途切れており、その区間は林道を迂回しなくてはならない。
その国道152号線沿いに、高速道路が計画されていることを知る者は多くはあるまい。その名を「三遠南信自動車道」という。今回はその予定路線に沿って、現状を見聞してきた。
中央道を松川インターで降り、大鹿村を目指す。県道59号線はすでにかなりの酷道。渓谷に沿ってクネクネと上って行く。ようやく出た谷間に、大鹿村役場があった。しかし周囲に人家はまばら。そこからは南北に狭い地峡が続く。この谷こそが中央構造線だ。
数km南下すると、「中央構造線博物館」がある。観光資源がほとんどないこの地域の貴重な見どころだが、月曜・火曜は休館日。無念の涙を飲みつつ、敷地内一面に展示された石の標本を見て満足する。
さらに南へ下ると、国道は猛烈に狭くなった。基本1車線でクルマのすれ違いは不可能。「これが国道か」という感動に包まれ、対向車に身構えつつ前進するが、すれ違ったのは郵便配達のカブだけ。地蔵峠までの10km以上、クルマとは1台もすれ違わなかった。
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地蔵峠が近づくと、国道は林道のごとくくねり出す。しかし交通量が極端に少ないため、緊張感はそれほどない。「酷道独り占め」感が妙に気持ちいい。
地蔵峠のてっぺんで国道が途切れ、「蛇洞(じゃぼら)林道」となる。名前は地獄への道のようだが、道路の実態としては北側の国道となんら変わらない、舗装されたクネクネ道だ。
途中に分かれ道があり、しらびそ高原へ抜けられる。しらびそ高原の先には、「日本のチロル」と異名を取る下栗の里がある。鎌倉時代以来の歴史を持つ超絶な傾斜地にある集落で、まさに異観だが、今回の主旨からはずれるため、国道への復帰を目指して林道を下った。
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1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中
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