東條英機がなぜ首相なれたのか? 昭和研究の第一人者・保坂正康が解き明かす昭和の謎
― 連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―
「保阪正康×鴻上尚史トークイベント 戦争と特攻~歴史を語り継いでいくこと~」という企画を、ジュンク堂さんでやりました。
昭和史に興味がある人間からすると、保阪正康さんは半藤一利さんと並んで、両巨頭、昭和研究の第一人者です。
そういう方と、いろいろとお話できたのは、じつに幸福でした。とても活字にできないことも、いろいろと話せました。
もともとは、保阪さんが『昭和の怪物 七つの謎』(講談社現代新書)という本を出して、『不死身の特攻兵』を出した僕と終戦記念日前に話そうという企画でした。
保阪さんの本はじつに興味深いものでした。
僕の『不死身の特攻兵』を読んだ人なら、東條英機という人がいかにとんでもないか分かります。
「戦争は負けたと思った方が負けなんだ」とか「高射砲は精神力で撃つんだ」なんてことを言った人です。
長年、東條の秘書官を務めた赤松貞雄氏に、保阪さんは、「東條英機という人は、文学書を読んだことがありますか」と聞きます。赤松氏は、陸軍大学校を出た秘書官として、「小説のことか? ないと思う。われわれ軍人は小説を読むなんて軟派なことに関心を持ったら、軍人なんか務まらないよ」と当然のように答えます。
軍人だけなら、そう言ってもいいのかもしれませんが、大臣と総理大臣になる人は、それじゃまずいだろうとすぐに思います。だって、政治をするためには、人間そのものを思索し、思慮することはとても大切だからです。
「精神論が好き」「妥協は敗北」「事実誤認は当り前」というのが東條のような軍人の特徴だと保阪さんは書きます。
東條という人は、人事を動かすのが大好きだったそうです。周辺にイエスマンを置き、諫言の士を遠ざけました。結果、有能な将校、学究肌の軍人、世界を知っていた駐在武官達が東條体制から外されました。つまり、陸軍の中枢には、東條の言いなりになる人しかいないまま、戦争を始めたことになります。
昭和研究の第一人者・保坂正康さんが解き明かす昭和の謎
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