かつて“希望”だった「目に見えないネットワーク」は、今や重荷や苦痛になった/鴻上尚史
― 連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―
2月22日から始まる「虚構の劇団」公演『ピルグリム2019』の稽古をがしがしと続けています。
もともとは、30年前に「第三舞台」の公演として上演されたものです。
この時は、「目に見えないネットワーク」として「伝言ダイアル」を取り上げました。
覚えている人はいるでしょうか?
電話に誰でも伝言を残せるシステムをNTTさんが始めて、いきなり、巨大な匿名伝言掲示板のようになったものです。
思えば、日本人が現実世界とは違う「目に見えないネットワーク」を意識した初めてかもしれません。
今でも強烈に覚えていますが、いくつかの番号には、切実な伝言がたくさん吹き込まれました。
「実の妹を愛してしまいました。どうしていいか分かりません」なんていう、声の調子から判断して相当深刻なんじゃないかという伝言の後に「僕もです。姉と関係を持っています」なんていう、これまたシビアな声が続いたりしました。
僕は、いろんな番号に電話して、いろんな伝言を聞きまくりました。
絶望のつぶやきあり、ナンパの誘いあり、人生相談あり、本当にバラエティーに富んでいました。
聞きながら、僕は希望を感じました。ここには、「目に見えないネットワーク」がある。現実の社会がどんなに行き詰まっても、このネットワークによって、情報と情報が、人と人がつながることができるんじゃないか。
そう思って書いた『ピルグリム』は、「目に見えないネットワーク」に希望を感じる作品になりました。
それから、14年後、今から16年前に、新国立劇場で再演しました。
この時は、「分散型コンピューティング」に「目に見えないネットワーク」の希望を見ました。
「分散型コンピューティング」は、今も行われていますが、個人のパソコンにソフトを入れて相互につなぎ、ひとつの巨大なコンピューターにして、例えば、宇宙からの電波を分析するプロジェクトです。
かつて希望だった「目に見えないネットワーク」
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