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下世話な会話すら真に尊く感じさせる文学や芸術の力がある/ドラマ『死にたい夜にかぎって』第4話

 回を追うごとにハマっていく深夜ドラマ『死にたい夜にかぎって』(MBS毎週日曜深夜24時50分~、TBS毎週火曜深夜25時28分~)。爪切男の自伝的小説を原作にした、冴えない小説家志望の主人公・浩史(賀来賢人)と、ちょっと病んでいる恋人アスカ(山本舞香)の6年間に渡る同棲生活を描いている。その第4話は、ふたりが出会って5年目の2010年に起きる危うい局面。 あまりにドラマにハマり過ぎて、浩史と打とうとして浩死になってしまいながら、レビューを書きます。

恋人の浮気を知りながら、風俗に通うことで“バランス”をとる浩史(賀来賢人)。第4話では新聞配達員に恋をする。(C)2020「死にたい夜にかぎって」製作委員会・MBS (C)爪切男/扶桑社

 2009年に倦怠期が訪れ大喧嘩しつつもまだ一緒に暮らしているふたりだったが、浩史はアスカへの不満を風俗で解消するだけでは済まなくなってきていた。 編集部員のすすめでペットを飼いはじめるも、それだけでは足りず、ついに毎朝、新聞配達に来る紺野さん(堀田真由)に心惹かれていく。 ヘルメットをかぶった堀田真由が、ただただいじらしい回。  原作小説は10数ページほどの短編が連なった構成になっているが、ドラマ版はその短編をいくつか組み合わせて1話にしている。第4話で描かれる浩史とアスカのすれ違いといらだちは、原作の「ガムをすぐ飲み込む子供と最強の親父」「アサリの鳥葬」「一分間だけの恋人」から成っている。この3本、どれも秀作である。  「ガムをすぐ~」は、浩史の父(光石研)の話。浩史の少年時代、いつもすごくこわいお父さんがある日、やたらと優しかったことがあって、その理由があとになってわかる。そのときの奇妙な余韻。  「アサリの鳥葬」は、浩史が子供の頃のペットが買いたくなって、アサリを「乱歩」と名付けて飼った思い出と、歳月を経て、再び始まったアサリを飼う生活。今度は、玄武、白虎、朱雀、青龍と名付け大切にしていたが……。 「一分間だけの恋人」は、新聞配達の女性との淡い交流。  ガムとアサリ、新聞配達の女の子とアサリがうまいこと絡み合って、一寸の虫にも五分の魂的なことを思う浩史と、彼が次第に自分から離れていっていることを肌感覚で気づいているその感情をアサリにぶつけるアスカの、どっちの気持ちもわかる。だから、見ていて心をぐちゃぐちゃにかき回されたようになる。  男女、どちらかの一方的な観点に立ったお話も世の中にはたくさんあり、それはそれで、自分にかなり都合良い展開にすっきりできたりするものだけれど、『死に夜』は30分の短い時間のなかで、基本は浩史目線でありながらも、アスカの気持ちもなんかわかるのだ。第4話は、紺野さんの気持ちもじわじわ伝わって来た。  ドラマを見て、毎回思うのは、浩史とアスカの住んでいる部屋の美術が丁寧に飾りこんであるなあということ。押入れを作業デスクにしてある感じとか。さりげなく、キッチンと寝室の仕切りの部分に目隠しのような暖簾的な布がかけてあるとか、細部を見る楽しみがある。  また、オープニング主題歌のましのみ「7」からの縦スクロールするタイトルバックや、エンディング主題歌であるアイナ・ジ・エンド「死にたい夜にかぎって」のかかり方もいい。  賀来賢人がやや変態ぽい性癖のある、見た目も仕事もそれほど冴えない男を演じても、スイーツものの映画やドラマの相手役的な雰囲気があるから、女子が見ても、素敵なラブストーリーだと感じるのだが、それだけでは終わらず、たいてい、シモネタが挿入されてくるところにクスリとなる。4話も、薄々想像していたが、やっぱりそれか……というオチに笑ってしまった。きっと「あんたバカァ」(エヴァのアスカふうに)と言わせたいに違いない。  文学や芸術とはいかにしょうもないことを崇高に描くかってことなんだなと『死に夜』を見て改めて思う。  一時期、「尊い」というワードがSNSで多用されたが、『死に夜』は下世話な会話すら、真に尊く感じさせる文学や芸術の力がある。高校時代の可愛い子は「虫の裏側」と冴えた表現をしていることに対して、アスカは「金魚の口」という凡庸な表現しかできないところもかえって愛おしい。  さて、最初はあんなにもお互いを近くに感じていた浩史とアスカの間に徐々に小さな障害物が出現してきているように感じる2010年。とすると、第1話で描かれたアスカと浩史が別れる2011年まであと1年!? 第5話は早くも2011年? それとも過去に戻る? もう気が気じゃない。  ちなみに私は、エアガンを少年浩史に発砲されてよける光石研の動きと、ラッパー編集部員のひとり、黒田(戸塚純貴)のスルーされがちな言葉の挟み方が好きです。

爪切男がこれまでの女性との出会いや別れを綴った実話小説『死にたい夜にかぎって』(扶桑社文庫)

文/木俣 冬
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など
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MBS/TBSドラマイズム『死にたい夜にかぎって』詳細情報

<放送・配信情報>
MBS毎週日曜深夜24:50~ TBS毎週火曜深夜25:28~
TSUTAYAプレミアム、TVer、MBS動画イズムでも配信中
TSUTAYA特設ページ:http://tsutaya.jp/syk_p/

主演:賀来賢人
原作:爪切男『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)
監督:村尾嘉昭
脚本:加藤拓也(ドラマ『俺のスカート、どこ行った?』)
制作:TBSスパークル
製作:カルチュア・エンタテインメント MBS

【番組公式SNS】
・ドラマ公式Twitter:@shinitai_yoruni
・ドラマ公式Instagram:shinitai_yoruni

【ドラマ公式サイト】
https://www.mbs.jp/shinitai_yoruni/

©2020「死にたい夜にかぎって」製作委員会・MBS ©爪切男/扶桑社

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単行本・文庫本:『死にたい夜にかぎって』詳細情報


作者:爪切男
単行本・文庫本好評発売中
発行元:株式会社 扶桑社

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・作者プロフィール:爪切男 (つめきりお)
’79年生まれ。派遣社員。ブログ『小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい』 が人気。’14年、『夫のちんぽが入らない』 の主婦こだまとともに同人誌即売会・文学フリマに参加し、『なし水』に寄稿した短編『鳳凰かあさん』が話題となる。’15年に頒布したブログ本も、文学フリマで行列を生んだ。本書『死にたい夜にかぎって』がデビュー作となる。週刊SPA!!では、労働エッセイ『働きアリに花束を』が好評連載中。

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文庫本:『死にたい夜にかぎって』

賀来賢人主演、連続テレビドラマ化決定!

単行本:『死にたい夜にかぎって』

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