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2段ベッドの3密で暮らす生活保護者たち。“無低”宿泊所でコロナ広がる危険性

 新型コロナの影響が、過去に例のないスピードで拡大している。自粛、休業、感染リスク……今は全国民が何かしらの影響を受けている状況だが、なかでも大きな被害を受けているのが、以前からギリギリの暮らしを続けていた生活困窮者たちだ。元から脆弱だった生活基盤が、一気に崩壊しかけている。

新たなクラスター化が懸念される「ムテイ」で暮らす人々の心情

コロナ貧困の絶望

個室タイプで暮らす元大工の男性

 新型コロナの影響で生活困窮者が続出するなか、福祉関係者などが懸念していることがある。それが、無料低額宿泊所で感染が広がる危険性だ。無料低額宿泊所とは、通称、無低(ムテイ)と呼ばれ、ホームレスをはじめ生活に困窮し住まいを失った人たちが、生活保護を受けながら共同生活をする民間施設のことである。全国に570施設が存在し、利用者数は約1万7000人に及ぶ(平成30年7月時点)。  なぜムテイの感染リスクが不安視されるのかというと、いわゆる「3密」状態になりやすいからだ。施設によっては利用者が相部屋で寝泊まりし、食堂やトイレなどはすべて共用。さらに利用者はそもそも高齢者が多い。ムテイで暮らす人たちはどうしていたのだろうか。貧困ビジネスの現場を多く取材してきたジャーナリストの長田龍亮氏がリポートする。  緊急事態宣言発令後、筆者は都内と神奈川県内にあるいくつかの施設を訪ねた。まず1軒目は、横浜市内にある個室タイプの施設。風呂、トイレは共同だが、住人は4~5畳の個室が使え、食堂はなく一日に2回弁当が配られる。 「ここは個室だし、基本的に自分の部屋に籠もるから、ほかの人とは接触が少ない。玄関とか廊下ですれ違うことはあるけど、とくに危険は感じてないよ」
コロナ貧困の絶望

彼が暮らす施設内では入り口に感染への注意書きがあり検温や換気を呼びかけていた

 そう語るのは、滞在歴5年の男性(50歳・元大工)だ。生活上の変化はないかと聞いても、「何もないねえ。商売人は困り果てているだろうけど、生活保護を受けてれば、役所から毎月もらえるお金が減るわけでもないし」と、あっけらかんとした口調だった。  次に訪ねたのは、都内にある4階建てのビルを改装してつくられた施設だ。責任者の男性の説明によれば、現在、ここでは34人が生活しているとのこと。居室は2人一部屋で、なかには2段ベッドを並べた4人部屋も。室内はとても換気がいいとは言えない環境だ。
コロナ貧困の絶望

今回、施設内の撮影は許可されなかったが、写真は筆者が3年前に同じタイプの施設を撮影したもの。概ねこのような住環境だと思ってもらって間違いない。

 責任者に3密の危険を指摘したところ、「じゃあ、どうすればいいの? 突然、コロナだって言われてもすぐに対応できるわけないでしょ」と語気を強めた。では利用者の心境はどんなものか。 「べつに何とも思わないねえ。心配しても仕方ないじゃん。(コロナに)なったらなったでしょ」(滞在歴10か月の55歳男性)  厚生労働省からは全国の各ムテイ利用者と職員に、一人1枚、郵送でマスクが配布されているそうだが、今回の取材で見た利用者は、誰一人として着用していなかった。
コロナ貧困の絶望

長田龍亮氏が3年前に撮影したムテイ内の様子。今回取材した相部屋の施設も同じようなつくりで、住人同士が「3密」になりやすい

 ただ、施設運営側は不安が募るという。横浜市に9つの施設を構える業者のA氏はこう話した。 「利用者には、なるべく外出しないように指導していますけど、強制はできませんから。気をつけろと言われても、どうしていいのやら。あとは、少なくともウチの施設から感染者が出ないように“願う”ことしかできません」 コロナ貧困の絶望 もし感染者が出れば閉鎖を余儀なくされるだろう。そのとき彼らが移り住む場所はあるのだろうか。 <取材・文/週刊SPA!編集部 長田龍亮>
年収100万円で生きる-格差都市・東京の肉声-

この問題を「自己責任論」で片づけてもいいのか――!?
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