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トランプ氏が猛追?「反差別より治安」を願う“隠れトランプ”が掘り起こされた皮肉

 11月3日に迫った米大統領選だが、10月最終週から、「トランプ氏が追い上げている」という報道が増えた。現地の世論調査では、バイデン氏優勢ながら、差が縮まっているというのだ。  10月30日に激戦のミネソタ州に入ったトランプ大統領は、「国民の安全を守る」とアピール。ミネソタ州といえば、5月に黒人男性が白人警察に死亡させられ、ブラック・ライヴズ・マター運動(以下、BLM運動)=黒人への暴力や差別に反対する激しい運動のきっかけになった土地だ。
BLM

BLMの行進。ニューヨーク、2020年7月(C)Julian Leshay

 日本で報道だけ見ていると、BLM運動を理解せずに分断を煽ったトランプ大統領は、当然支持を失うだろうと感じられた。    ところが、『隠れトランプのアメリカ』を上梓した横江公美氏(東洋大学国際学部教授)によると、警察を大動員してデモ制圧にかかったトランプ大統領は、「新たな票田を獲得した」というのだ。なぜそんな皮肉な結果に?  ちなみに横江氏は、米国の大手保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」の元上級職員で、2016年の大統領選でもトランプ勝利を言い当てた。2020年の大統領選も、“隠れトランプ”がカギを握ると予測する。(以下は、横江公美著『隠れトランプのアメリカ』の一部を編集したものです) 隠れトランプのアメリカ

徹底的に警察の味方をしたトランプ大統領

 反差別を求める声が高まり続けるなかで、トランプは新たな票田を見いだした様子である。本来であれば、差別が生む分断を阻止するべく行動するのが、アメリカのリーダーたるトランプの役目だ。だが、トランプにその気はない。8月の共和党全国大会の受諾演説でも、これだけBLM運動が活発化していながら、「分断を終わらせる」という話はまったくしなかった。
反BLM

BLM運動に反対し、トランプ大統領と警察を支持するデモ隊も。オハイオ州コロンバス、2020年7月18日(C)Adrienne Wallace

 分断を阻止することよりも、トランプは治安の回復に注力した。警察の改革を訴え、そのうえで「治安を守るための警察官が必要だ」と訴えていった。抗議デモの破壊行為を「国内テロ」と非難し、徹底的に警察の味方をしている。公約では警察改革を柱に据えて「警察官と法執行官への十分な資金提供と雇用」「法執行官に対する攻撃の重罰化」と、警察官の収入と雇用、安全を守ることを盛り込んだ。

警察の労組35万人超の取り込みに成功

 9月に入ってからは暴動が何度となく発生したウィスコンシン州ケノーシャを訪問し、治安維持にあたる警察と州兵部隊に賛辞を贈った。このとき、白人警官による7発の銃弾で重傷を負ったジェイコブ・ブレークさんの母親と面会する予定だったが、弁護士が電話で面会時の会話を聞くと伝えられたことを理由に、急遽キャンセルした。この直後に、全米最大の警察労組である警察友愛会は大統領選挙でトランプを支持すると表明した。35万5000人以上の会員を擁する組織を、取り込むことに成功したのだ。  この背景にはかつてニューヨーク市長だったジュリアーニの存在がある。1980年代までニューヨークの治安の悪さは有名だった。そこで1990年代半ばからジュリアーニ市長は大幅に警察官を増やし、治安の回復に努めたのである。いまだにジュリアーニは警察からの支持が厚い人物だ。そのため、8月の共和党全国大会の最終日にジュリアーニは「暴動の最中に、民主党の市長は警察の逮捕をたびたび妨害し、リべラルな地方検事は暴動が終わらないように暴徒を釈放している」とトランプと警察を援護した。
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バイデン候補は失言癖がわざわい
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明治大学卒業後に松下政経塾に入塾。プリンストン大学、ジョージ・ワシントン大学で客員研究員を務めた。’11~’14年まではアメリカの大手保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」でアジア人初の上級研究員として活躍。’16年から東洋大学グローバル・イノベーション学科研究センターで客員研究員、’17年から同大学教授に。’16年に出版した『崩壊するアメリカ』でトランプ政権の誕生を予想するなど、アメリカ政治に関する著書多数。近著に『隠れトランプのアメリカ

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