大統領選まで残すところあと数日。トランプ大統領とバイデン候補のどちらが勝利するのか? 選挙直前に、民主党を支えるシンクタンク・米国先端政策研究所のグレン・S・フクシマ上級研究員と、近著『
隠れトランプのアメリカ』(扶桑社刊)でトランプ勝利を予想している元ヘリテージ財団上級研究員の横江公美・東洋大学教授が緊急対談!
写真/AFP/アフロ
<選挙直前対談>横江公美×グレン・S・フクシマ
――10月23日(日本時間)には最後の討論会が行われましたが、11月3日の大統領選への影響は?
フクシマ:9月の一回目の討論会ではトランプ大統領がバイデン元副大統領の発言をあまりにも頻繁に遮ったので、視聴者は発言をよく聞き取ることができませんでした。一方、今回はもう少し「普通」の討論会でしたから、両候補の政策の違いが鮮明にわかったと思います。ただし、多くの有権者はすでに投票先を決めており、この討論会によって投票先を変更した人は少ないでしょう。
横江:私は最後の討論会でトランプ大統領が盛り返した印象を受けました。代替エネルギー推進派のバイデン候補から「石油産業を潰す」という意に受け取れる発言を引き出した結果、バイデン候補は討論会後に「誤解を解きたい」と記者に釈明するほど慌てていました。石油生産の盛んなテキサス州やペンシルベニア州での票を失うことを危惧してのことでしょう。
フクシマ:世論調査を見るとバイデン候補が優勢ですが、その数字はあまりアテにはなりません。1つにはトランプ支持者であることを隠している“隠れトランプ”がまだまだいるからです。2つ目に、トランプ支持者に多い教育レベルや所得レベルの高くない白人男性がサンプリングに十分入っていない可能性があることもあげられます。3つ目に、いくら世論調査が正確であっても、投票率次第で選挙結果は大きく変わってくるからです。
’16年の大統領選では教育レベルの高くない白人男性の投票率が上昇し、黒人と若者の投票率が低下したため、トランプの勝利に繋がりました。逆に’08年は黒人の投票率が上がって、オバマの勝利に繋がった。総合して考えると、支持率に関係なく、投票率が上がるほどバイデン勝利の可能性が高くなり、下がるほど岩盤支持層を抱えるトランプ大統領に有利に働くと考えられます。
よっぽど大差がつかない限り、当日には勝敗が判明しない
横江:特に今回は郵便投票を行う人が多いので読みにくいですね。フロリダ大学のアメリカ選挙プロジェクトによると、10月23日時点で全有権者の22%にもなる5200万人が期日前投票や郵便投票を済ませたようです。その大半は民主党支持者の投票と見られていますが、トランプ大統領はUSPS(アメリカ郵政公社)がバイデン支持を表明していることもあって「郵便投票は信用できない」「投票所に行って投票すべき」と訴え続けています。
そうなると、11月3日の投開票日には投票所に行く支持者が多いトランプ大統領が票数を伸ばし、郵便投票の開票が進むほどバイデン候補の票が積み重なっていく、というシナリオが考えられます。投開票日当日の消印まで有効とする州も多いので、よっぽど大差がつかない限り、当日には勝敗が判明しないでしょう。
フクシマ:それどころか、バイデン候補が圧勝しなければ、1か月以上勝敗が確定しない可能性もあります。トランプ大統領は「おれが負けるはずはない。負けるときは不正があったときだ」と言ってますから(苦笑)。アメリカの大統領選は538人いる選挙人の取り合いです。過半数にあたる270人の選挙人を集めないと大統領になれません。勝敗が判明するまでに時間を要する接戦を演じるようであれば、トランプ大統領は「あの州の開票結果はおかしい」と再集計を求めるでしょう。そうすると、数週間で勝敗が決しない可能性もあるんです。
横江:’00年の大統領選ではフロリダ州における共和党・ブッシュ候補と民主党・ゴア候補の得票率の差が0.5%未満だったことから、1か月近くかけて再集計しましたね。その結果、ブッシュ候補が271の選挙人を獲得して勝利した……と思ったら、ゴア陣営が同州地裁に異議申し立てを行って法廷闘争に発展。投票日から1か月以上すぎた12月9日に連邦最高裁が再集計の停止を命じて、ブッシュ勝利が確定しました。