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内閣支持率急落は迷走を続けるコロナ対策への不信感の表れだ/鈴木涼美

報道各社による12月の世論調査で、菅内閣の支持率が軒並み急落(共同通信の調査では、前回11月から12.7ポイント下落し50.3%)。経済優先のコロナ対策に対する不信感が募っている。急落への危機感からか、11日にインターネット番組に出演した際は自ら「ガースーです」と名乗るなど親しみやすさをアピールした。
鈴木涼美

写真/時事通信社

誰も知ることのない明日へ/鈴木涼美

 男の人が要領を得ないなと思うのは、いい女を抱くためにハクをつけて金持ちになっていい車乗って『ホットドッグ・プレス』でテクニックを学んで時にはテキーラなんか持ち出してみるのに、いざ女が寄ってくると、どうせ俺のカネや肩書が目当てなんだろうと難癖をつけ出すところで、だったら最初から何も魅力的な装飾などせずに全裸で突っ立っていればいいと思うし、女からすると「条件は悪いしどこがいいか自分でもわからないけどなんか彼が好き」とアンフェアに没頭する恋は大抵無惨な終わり方をするのだが、どうやら彼らには彼らなりに、表面的ではない僕を評価してほしいというものがあるらしい。  そしてそういう意味では、安倍内閣というのは男の夢のような評価のされ方をしていた。政策や実績、発言など政権としての後天的要素は関係なく、ただひたすら無批判になんか彼が好き、というように。  好スタートを切っていた菅内閣の支持率がここにきて急落した。学術会議任命拒否や「桜」疑惑など前政権の残した負の遺産に関してはのらりくらりと口を閉ざして対処したかに見えたが、経済優先のコロナ対応で感染者数に歯止めが利かなくなったことや、政権周辺の政治とカネ問題の浮上が不信感を呼んだ。  特に、官房長官時代からの肝いり事業「Go Toトラベル」に関しては、感染拡大に顕著に影響しているとの批判を受けて、12月14日の時点でようやく中止を発表。政府のコロナ対策について「迷走している」という声は大きくなる一方だ。  果てしない闇のようなコロナ禍で、感染者数の増加による医療崩壊だけはなんとしても避けたい事態ではあるものの、自殺者の数もとどまることを知らないので、優しさだけじゃ生きられない、少しくらいはみだしたっていいさと経済回復を優先する姿勢は一つの方針として理解できないことではない。もちろん結果として支持が減るのであれば、それは「いくら生活が苦しくとも、ウイルスによるダイレクトな死の恐怖から逃れたい」という市民意識の読み間違いか、メッセージによる意識転換の失敗だ。  いずれにせよ、政策や疑惑など、政権としての後天的な要素で大変フェアに評価されているという側面は生まれつつある。その背景に、前政権応援団が好んだ排他的ネトウヨ思想と現政権との間に、ある程度の距離感が生まれているという点があることは間違いない。ほぼ前代未聞の五輪延期など、トゥモローネバーノウズ感が極めて高いこのパンデミックの下、 それでもよくわからない人徳なんていうものを当てにしていた前政権時よりは、人が真っ当な判断力を取り戻しているのかもしれない。  質疑などで全く覇気のない現首相には、少なくとも、償うことさえできずに秘書の略式起訴の可能性だけ高まるどこかの前首相のような退き方ではなく、正当な選挙で裁かれる腹づもりをもって、政策への信念と国民の声を聞く柔軟性を取り戻してほしい。ついでに、愛想振り撒き型のスピーチが嫌いなのは結構なんだけど、メッセージを届けるのはリーダーの重要な役割だということも思い出してほしい。 ※週刊SPA!12月15日発売号より
’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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