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再びの時短要請を受け、わかりやすい正義を垂れ流す安直を省みる/鈴木涼美

東京都は11月25日、酒を提供する飲食店とカラオケ店に対し、11月28日から12月17日までの間、22時までの営業時間短縮を要請。会見を開いた小池都知事は、重症者数が急増していることに危機感を示した。
鈴木涼美

写真/時事通信社

Hate to tell the truth/鈴木涼美

 毎年この時期にユーキャンの新語・流行語大賞の候補一覧を見ると、大抵いくつか「随分前に流行った気がするけど、これも今年だったか」という、その年の前半によく口に出されてその後はあまり口に出さなくなっているようなものが入っているものなのだけど、今年はほとんどそれがなかった。 「ステイホーム」とか「アベノマスク」とか、実に半分以上の言葉が直接的・間接的に新型コロナウイルス関連で、むしろ3月に初めて口にされたものすら、「もう半年もたったのか」というほど直近の印象が強い。  ウイルスがなければ、候補のうち結構な数が五輪関係のものだったのだろうか。でもだとしたら、本格的に寒くなってきた今頃は、やっぱり随分前のことのように思えていた気がする。コロナ禍は時を止めた。  東京都をはじめとする主要都市では再び、飲み屋などの飲食店に、営業時間短縮を要請する。ウイルスは深夜に活性化されるわけではないとか、営業時間を短くすれば混雑が集中して逆に3密状態を招きかねないとか、そういった批判は既に前回の要請時に出尽くしている気もするし、もっと厳密なロックダウンをすべきだとか、いや日本は個人レベルで結構対策する人が多いから大丈夫だとかいう議論も、もう何度もやったからもう一回繰り返すエネルギーはなかなか湧かない。ここでもやはり時が先に進むことなく同じところを逡巡している。  一応繰り返してみれば、同じ時間で区切るなら、それこそ混雑は集中するし深夜にウイルスが活性化されることもないので、混雑緩和のためならむしろ営業時間を大幅に広げてはどうかとも思うが、確かに再度のロックダウンに踏み切った欧州の各都市と比べると東京や日本の観光地の賑わいはやや場違いな感じがするし、22時までなら飲みに行かずに帰るという人も増えるだろうし、全く意味がないわけではないのだろう。  一度やった議論なので個人個人がこうやって一人で完結できる。昔、歌舞伎町の風営法が厳しくなったせいで、一律に午前1時に店を閉め出された血気盛んなホストやキャバ嬢たちが一気に路上に溢れ、むしろ治安が悪くなった気がしたが、店自体の客層はややマシになったし、何をするにもどっちかにいいところがゼロってこともない。  私的には結構、この一年の意義は大きいようにも思えるのだ。便利になったせいでコントロール不可能なものの扱いが劇的に下手になっていた現代人が、自分ではどうしようもない大きなうねりの中に放り投げられたわけだし、こうやって議論が何度も逡巡するのを目の当たりにして、何かにわかりやすい正義を置いて安直な意見を垂れ流していたここ数年を反省した人も多い気がする。  ちなみに流行語候補の最後尾に付け加えたようにお笑い芸人の決め台詞が入っていた。「まぁねぇ~」って鼻につく相槌だけど、少なくともそこで相手の言うことに一旦同意して一息つく言葉ではあるので、コロナによってもしかしたら少しだけ見えるかもしれない、炎上時代のその先に、持っていくべき言葉なのかもしれない。 ※週刊SPA!12月1日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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