秋篠宮殿下の発言に思う外野が結婚を差し止める無意味さ/鈴木涼美
11月13日に眞子さまが結婚について「結婚は、私たちにとって自分たちの心を大切に守りながら生きていくために必要な選択」とお気持ちを発表され、続く11月30日には、55歳の誕生日を迎えられた秋篠宮殿下が会見で「結婚することを認めるということです」とご発言された。
キャバクラに勤めていたときの友人であだ名を「メイクドラマ」という女がいて、本人は至って大真面目に、男と喧嘩して茫然自失してほぼ下着姿で雨の中部屋を飛び出したり、セントラルロードで男に向かって大声で「別れないから!」と叫んだりして周囲の冷笑を買っていた。
もちろん、そういう女は「事件」が起きない恋愛では燃えられない性質なのだけど、人が生きていてそうそう事件なんて起きるもんかねぇと思ってそれぞれの「事件」の原因を詳しく聞くと、大抵「小鳥が鳴いたから」と言われるのと同じくらいどうでもいいことだったので、逆境は襲いかかるものでも立ち向かうものでもなく、作り出すものなんだなぁと思った20代歌舞伎町の夏。
さてそんな逆境萌えの女だったら垂涎もののドラマが皇室周辺を賑わせてはや3年、このほど秋篠宮殿下の発言を受け、国民は「ついに完結?」の見出しを脳内に浮かべながら、再びあれこれ言っている。
お父上があえて憲法を引いて「結婚を認める」とご発言したところで、結婚一時金や今政権で検討される女性皇族に関する新制度で税金が小室圭さんに流れることを嫌悪する声、これだから女系天皇は論外だという声、お立場ってもんがあるでしょ的な声など、ドラマ視聴者たちの感想は尽きない。
小室さんの母の「金銭トラブル」が有耶無耶になっていることで、お相手がまともな人だとは思えない、お金や立場目当ての匂いが拭いきれない、眞子さまが騙されて不幸になる気がする、というあたりに多くの本音があるのだろうか。
女だからこそ堕ちてみたい穴というのはあって、地上にある無数のそれらにいちいち片足突っ込んできた身としては、「幸福になりそうにないから」と他人に責められる筋合いはないとは心から思う。幸福追求というのは権利であって義務でないので、一般人になる女性には当然不幸になる権利はある。
慣習としての一時金の金額だって、別に幸福であることや人格が素敵であることは条件ではないのだし、変な親がいようが、金目当てだろうが、そこに愛があろうがなかろうが、外野に差し止める術などない。
愛なんてものはそもそも恋愛工学だかなんだかの提唱者くらいしか証明できるものではないし、つまりは愛の不在も基本的には誰にも証明できないのだ。キャバクラの外野だったらメイクドラマちゃんと友人付き合いをやめることもできるが、皇室と縁を切ることはできない。
個人的には、皇室に生まれた女性が、一般男性と結婚すれば皇籍を離脱して一般人になる、という結婚至上主義のほうが引っかかる。少なくとも女性天皇や女系天皇が認められていない現在、いずれ一般人になるのなら、成人したら、ご意志があればという条件じゃダメなんだろうか。
かつて上昇婚を夢見た女たちにとって結婚は金持ちへの飛び道具だったが、だからこそ相手の人格や愛の所在よりも結婚の事実に固執した。みんなそんなに眞子さまの恋愛相手の人格や愛の所在が気になるのであれば、「結婚しないと手に入らないもの」は少ないほうがいい。
一般女性の多くが、男を見る目があり、変な逆境に萌えずに良い関係を紡げているか、というとそれはまた別の問題ではあるけれど。
※週刊SPA!12月8日発売号より
’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中
冬のせいにして暖め合おう/鈴木涼美
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