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海外の一般観客受け入れ見送りで五輪中止は必至

新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、今夏開催予定の東京五輪・パラリンピックについて、大会組織委員会は海外からの一般観客受け入れを断念する方向だと関係者が明らかにした。聖火リレーが始まる3月25日までには正式決定する見通し。
tokyo2020

写真/時事通信社

サヨナラは悲しい言葉じゃない

 人のことは言えないというか、私にも「中止」を言うのが遅れていろいろと混乱を招いた苦い経験がある。大して行くつもりのなかった成人式の前の日にキャバの上客が来ると言うので出勤予定を入れていて、どうせ朝起きられないし、その上客は毎回アフターに誘ってくるし、二日酔いで帯を締めるのも嫌だし、さっさと着付けや写真撮影の予約などキャンセルすればよかったのに、でも行けるかもとか、直前に言えばいいやと思って放置してしまい、しかも美容院の予約時間までホテルでぐっすり寝ていて、無断キャンセルで全額支払うことになったし、母親からは着信が10件もあった。  いまだ中止の決定がなされない今夏の東京五輪・パラリンピックで海外からの一般観客の受け入れが見送られるようだ。しかし無観客試合というわけではなく、運よく日本に住んでいる人は観戦できる。運動などできれば死ぬまでしたくない私には想像もできないが、なんかのスポーツで勝利をした選手が、試合後のインタビューなどで謙虚に「観客席からの応援に助けられました」的なことを言うのはよく聞く。  その発言を真に受ければ、日本在住者に応援してもらえる選手だけが、その、声援ドーピングを受けられることになり、公平とは言えない。「観客が背番号12番!」なのだとすれば、片方のチームは1人少ない人数で戦わなければいけないことになる。  五輪をこよなく愛するおじいちゃんの差別発言が「大会の理念に合わない」と国際問題となるほど差別撤廃や平和がウリの大会で、片方の選手に圧倒的有利な状況となるのはまずいだろう。いやいやそんなこと言ったって実際は選手の実力で戦うわけだから、と言うのであれば、「観客もチームメイト」「声援が何よりパワーになりました」的な建前は金輪際効力を失うことになる。これもまたスポーツ振興としてはよろしくない。  そもそも何で五輪は音楽でも料理でも文芸でもなくスポーツなのか、と若き日の私は甚だ疑問だった。愉快でポップな私の友人たちで、スポーツの大会など見て心躍る人なんていないし、だからフジロックが話題になることはあっても五輪が話題になることなどない。  大体スポーツなんていうどうしたって男女差が出やすいものより、句会とかお茶席とかのほうが今の時代に好まれそうな気もするが、そんな一部の筋肉マンたちのためのイベントを国を挙げてもり立てるのはもちろん、心置きなく勝敗が決まるスポーツを戦争の平和的代替物にしてナショナリズム爆発を願うからだ。だとしたら、敵国不在の観客席では、お上が狙うような愛国心も爆発しないだろう。  中止の条件はいよいよ出揃いつつある。GoogleもTwitterもようやく「五輪」と打つとすぐ予測候補に「中止」と出るようになった。あとは誰が栄誉ある汚れ役を買って出るかに尽きる。一瞬の汚れ役は歴史上では大英断として崇められるだろうから、すっかり嫌われちゃって挽回の兆しのない森氏はどうだろうか。どうせまだ影響力は持っていらっしゃるのでしょうし。 写真/時事通信社 ※週刊SPA!3月16日発売号より
’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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