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首相長男による過剰接待で高まる政治への不信感

22日の衆院予算委員会で、長男の接待問題について陳謝する菅首相。長男・正剛氏の勤める放送事業会社「東北新社」が’16年以降、総務省の幹部計13人を延べ39回接待していたことが、利害関係者による違法接待であるとして総務省は9人を懲戒、戒告処分。これを受けて東北新社社長は辞任、正剛氏も人事異動となった。
鈴木涼美

写真/時事通信社

ほうら君の手はこの地球の宝物

 主演のダニエル・デイ・ルイスがオスカーをとったスピルバーグの映画『リンカーン』は、一般に有名な奴隷解放宣言ではなく、憲法においても奴隷制を禁止した合衆国憲法修正第十三条の成立とその困難を描く。何故米国が奴隷解放と同時に人種の平等を達成できなかったのかという疑問によく答えている作品だ。  劇中、大統領は憲法改正に必要な3分の2の賛成を確保するために、かなりギリギリの切り崩し工作に奔走するが、その中でロビイストがこんなことを言う場面がある。“It’s not illegal to bribe congressmen, they starve otherwise”(贈賄が違法だったら議員は飢え死にしてしまう)。基本的に民主主義は放っておけば賄賂に塗れて汚れていくし、汚職に塗れた民主主義は無双状態で何でもできる。  緊急事態宣言中にクラブやラウンジに飲みに行って、「(コロナ禍で)お店が潰れてしまうと泣きつかれた」なんて言い訳するという、いかにも今風の不祥事に続いて表出したのは、利害関係のある民間企業による管轄官庁の接待という、あまりにオーソドックスで陳腐な行政と業界の接待汚職だ。  総務省の幹部11人が処分された、菅首相の長男・正剛氏が勤める放送事業会社・東北新社による過剰接待問題で、現在首相の記者会見などを仕切る山田真貴子内閣広報官も接待を受けていたことが判明。給与の一部を自主返納などし、さらに広報官の職も辞任すると報道された。  放送行政が歪められた可能性のある接待問題は当然、自粛期間中にラウンジに忍び込むことなんかよりずっと罪は重い。首相周辺の人事への大衆の信頼は再び大きく揺らいだ。  陳腐な接待汚職だが、首相が総務相の時代には秘書官も務めた長男が関係していることで事件は大きく色づく。首相は「私の長男が関係して、結果的に違反行為をさせてしまったことは大変申し訳ない」と陳謝したものの、当初は「長男は別人格だ」とも発言していた。  親子の人格が別なのは当たり前だが、これまでの関係性は周知の事実なわけで、少なくとも接待を受ける側から見れば、長男の背後に首相の匂いを感じるのは当然だし、そうなると業界と行政、さらには政治のブラックな「三密」構造が浮かび上がる。その構造を明るみに出し、国民の目につかない話し合いで物事が進んでしまうという疑念を払拭するためにも、東北新社による接待の狙いは厳しく追及するべきだ。  冒頭の映画ではリンカーンも、父に反抗して戦場に出向こうとする長男に手を焼く。米国の運命を左右する局面に立ちながら、自分の息子には戦場に行かせまいとするその様は、偉大な大統領の人間臭くて凡庸な一面として描かれる。  長男が東北新社に入社するとき、総務省とは距離を置いて付き合うよう言った、とも報道されるこの国の首相は果たして、言うことを聞かずに危ない橋を渡る息子に手を焼く凡庸な中年なのか、或いは息子を死地に送り出すことも辞さない冷血漢なのか。総務省は再発防止策をまとめたが、政治家やその側近の倫理観にも検証の目を向けてほしい。 ※週刊SPA!3月2日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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