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長電話世代の中年も電話嫌いの若者もハマったSNS「クラブハウス」

アメリカ発の音声型SNS「クラブハウス」が1月の後半から大きな盛り上がりを見せている。緊急事態宣言下、偶発的な出会いや会話に飢えている人たちのニーズを捉えたことも人気の要因。現在はiPhoneユーザーにしか対応しておらず、アンドロイドユーザーは利用できない。
鈴木涼美

写真/時事通信社

そうそう付き合わせてもいられない

 世界がぱちんとはじけそうで、「思考とエクリチュールと愛だけがそれを救済することができる」と言ったのは岡崎京子のマンガに出てくる古本屋のおねーさんだったのだけれど、少なくともSNSの普及などでネット上に大量に散らばった文字や文章はどうやら世界を救わなそう、と半ば絶望している人もいるのかもしれない。  昨日Twitterを開いてみたら、見知らぬ人から「セックスしたいけど風俗に行くお金がないので付き合ってもらえませんか」という、文章としておかしい気がするけど、一体どこから訂正していいのかよくわからないメッセージを受け取った私なんかも、ちょっとそう思う。  昨年の4月に、パンデミックの最中に米国で始まった音声型SNS「Clubhouse(クラブハウス)」の名前をここ数週間やたら聞く。米国人に聞いてみたところ、本国では起業家やテック業界人のなかで話題という程度らしいが、日本では他のSNSでもテレビでも話題が集中し、App Storeのランキングはずっと1位。  触ってみた感覚では、ラジオと電話とSNSを駆使したサロンという感じで、有名人同士の会話をラジオのように聴いてもいいし、手を挙げて途中から参加してもいいし、自分が何かのトピックについて知人と話す場所を設置してもいい。  Zoomと違って顔が見えないからスッピンでも使えるという人もいるし、YouTubeと違って料理しながら聴けるという人もいる。意外と中年層ユーザーが多いのは、サロンや長電話に親しみがあるからかもしれない。  ブームの理由と言えば、大きく2つある気がする。一つはアーカイブが残ることがなく、録音や文字起こしを外部に出してはいけないという規約があるということ。  書いたものが残る文字系SNSとは対極にある。芸人の深夜ラジオでの発言が炎上したのは記憶に新しいし、どこかの組織委会長が辞任に追い込まれる失言をしたのはもっと記憶に新しいが、そうやって後で発言が切り取られる心配がない。  それは話す側の心理的ハードルを下げると同時に、聴いているほうにとっては今ここでしか聴けない話、という価値が生まれる。ヘビーユーザーが口を揃えて「中毒性がある」と言うのも、この機会喪失への恐怖が生まれやすいからだろう。  もう一つは、すでに利用登録をしている人に招待をしてもらわないと新規登録ができない、しかも最初は招待枠が2人しかないというある種の親密度があること。  ユーザーの質を一定程度保つ効果が期待されるが、この「招待してもらわないと入れない」という仕組みは、クラブのVIPカードをもらうのと似た高揚と裏腹に、登録していないと招待してくれる友人がいないと思われる不安を生みだす。登録そのものが承認になり、リア充アピールになる。  さてこんな現象を見て、マリコの部屋へ電話をかけて男と遊んでる芝居続けた長電話世代のおねーさんとしては当然「若者よ、電話が嫌いと言っていなかったか?」という気分になる。  バイトの欠勤連絡はLINEでしたい、上司が電話をかけてくるのはパワハラだ、という若者が増え、若手ビジネスマンから支持を得ている堀江貴文『多動力』では、「電話をかけてくる人間とは仕事をするな」とまで断言されている。  とりあえずこのブームで学ぶべきは、上司との電話を激しく苦痛に感じる若者は、音声通話が苦痛なのではなく、上司との対話がひたすら苦痛だったのだということだろうか。 ※週刊SPA!2月16日発売号より
’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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