ベストセラー『人新世の「資本論」』の著者が見据える、資本主義と日本の行く末
気候変動危機や格差社会の根本原因は、資本主義にある―。経済思想家の斎藤幸平は、ベストセラー『人新世の「資本論」』(集英社新書)で厳しく批判し、解決策をマルクスの新解釈のなかに見出した。気鋭の俊才が見据える資本主義と日本の行く末とは?
経済思想家・斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』が30万部超と、経済書としては異例の大ヒットとなっている。
「人新世」とは、人類の経済活動が地球全体を覆い尽くした時代を意味する。際限なく経済成長を追求する一方で、格差の拡大に歯止めが利かない……資本主義の弊害を鋭く批判する斎藤氏には、資本主義の果実の分配を求める「投資」はどう映っているのか。そして、近年、日本でも急激に広がる格差を食い止める術はあるのか。
――コロナ禍で、テレワークできる人とできない人が生まれたのが象徴的ですが、格差の問題が過去にないほど噴出しました。
斎藤:コロナ禍で浮かび上がったのは、資本主義の2つの矛盾でした。第1の矛盾は、格差の拡大です。多くの店舗が営業自粛に追い込まれ、非正規雇用が簡単にクビを切られるなか、富裕層はますます富み、日本では上位50人の資産は昨年より47%も増え、1億円以上の資産を持つ富裕層は、昨年末に132万世帯を超えて史上最多となった。
理由は、コロナ禍でも続く株高です。日本はコロナ対策の失敗から実体経済が大きなダメージを被っているのに、株価だけは上昇し、もともと莫大な資産を持つ人は一層富んでいった。一方で、これまでいくら真面目に働いていてもいきなり職を失ったり、出勤を減らされて給料が激減した人は非常に多い。こうした状況は、どう考えてもおかしい。
――海外に目を向けても、国際慈善団体・オックスファムの調査発表によれば、マイクロソフトを創業したビル・ゲイツやテスラCEO(最高経営責任者)のイーロン・マスクなど、世界の上位10人の富豪は、コロナ禍のこの1年だけで株価上昇などによって、56兆6000億円もの利益を得ています。
斎藤:このお金で、全人類76億人にコロナワクチンを接種できるというから驚きです。身分や立場に関係なく感染するウイルスは“平等”だというが、そんなことはない。
医療や介護、ゴミ収集やスーパーのレジなど、私たちが日常生活を送るのに欠かせない仕事を担うエッセンシャル・ワーカーは、テレワークに切り替えることはできず、感染リスクに晒されながら日々働いているが、給料は安い。
一方、テレワークが可能なのは、高給取りで経済的に余裕のある人が大多数でしょう。彼らは安全な自宅に閉じこもり、Uber Eatsやヤマト運輸に必要なものを運ばせ、“快適な日常”を、コロナ前と同じように過ごしている。
――コロナ禍で炙り出された第2の矛盾とは何なのでしょうか?
斎藤:いかに私たちの生活や経済が「破壊的」だったかということです。
コロナ禍の遠因は、森林破壊に代表される地球環境の破壊にある。大量生産のために多くの資源を掘り返したり、食糧生産のための牧場や農地として森が切り拓かれていった。そして、奥地に土着していたウイルスを人間の生活圏に持ち込んでしまい、グローバル化によって世界中を人とモノが行き交う世界では、簡単にパンデミックを起こしてしまう……グローバル資本主義がこれほど発展しなければ、風土病のようにウイルスは外の世界に拡散されることはなかったはずです。
ただ、問題はウイルスだけにとどまらない。近年、大きな問題になっている気候変動も、資本主義が原因です。何でも安く手に入り、便利な生活をもたらしたかもしれないが、その裏では膨大な温室効果ガスが排出され、日本でも大型化した台風によって夏の豪雨災害が常態化している。「100年に一度」の豪雨が毎週のように降るなど、悪い冗談のようなことが毎年起きている。格差拡大と環境破壊は、コロナ禍のこの1年で、日本でも無視できないところまで来ています。
コロナ禍で炙り出されたのは、資本主義が抱える矛盾だった
世界トップ10の富豪はコロナ禍で56兆円の利益
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