『はいからさんが通る』少女マンガなのにヒロインが酒乱!?ーー南信長のマンガ酒場(5杯目)
マンガの中で登場人物たちがうまそうに酒を飲むシーンを見て、「一緒に飲みたい!」と思ったことのある人は少なくないだろう。『まんが道』のチューダーのように一度は飲んでみたい酒、『あぶさん』の「大虎」のように一度は行ってみたい酒場もある。酒の嗜好がキャラの特徴となっているケースも多々あるし、酒を酌み交わすことで親子や仲間の絆を深めたり、酔っぱらって大失敗、酔った勢いで告白(あるいはベッドイン)など、ドラマの小道具としても酒が果たす役割は大きい。
当コラムでは、そんなマンガの中の印象的な“酒のシーン”をピックアップし、そのシーンと作品の魅力について語る。酒好きな方はもちろん、そうでない方も、酒とマンガのおいしい関係に酔いしれていただきたい。
今回は、少女マンガの不朽の名作。なんとヒロインが酒乱なのだ。
今年でデビュー55周年を迎えた少女マンガ界の巨星・大和和紀。7月には、記念ムック『文藝別冊・総特集 大和和紀』(河出書房新社)も刊行された。その表紙にもなっているのが、代表作『はいからさんが通る』のヒロイン・花村紅緒である。
時は浪漫の香り漂う大正時代。女学校に通う紅緒は、料理も裁縫も「オール丁」。つまり落第レベルながら、武芸には秀でたじゃじゃ馬娘である。才色兼備の親友・環(たまき)とともに新時代の女性をめざすのだ――と意気込んだまではよかったが、ある日突然、祖父母の代から決められた婚約者・伊集院忍少尉が現れたから、さあ大変!
見目麗しきイケメンとはいえ第一印象最悪の出会いだったこともあり、「いくらなんでも一方的」「だれがあんな男とよりによって」と猛反発する紅緒。行儀見習いのため伊集院家に送り込まれても、向こうから断られるようハチャメチャな行動に出る。しかし、少尉の優しく誠実な人柄に、いつしか心惹かれていき……。
少女マンガの王道ともいえるラブロマンスに、デモクラシーや女性の社会進出、シベリア出兵や関東大震災といった時代背景も盛り込んだドラマはまさに波瀾万丈。その原動力となっているのが紅緒の破天荒なキャラクターである。シリアスな場面でも隙あらばギャグをかますコメディエンヌ。しかも、酒を飲んだら怖いものなしの“酒乱”なのだ。
紅緒の酒初体験は、お仕着せの結婚が嫌で隣家の幼なじみ・蘭丸と駆け落ちした際に、ひょんなことから親分子分になった車引きの牛五郎との固めの杯。初めてなのにグビッと飲み干し「おいし~~い!」とゴキゲンなのだから、生まれついての酒飲みだ。
そこから飲めや歌えのどんちゃん騒ぎの末、蘭丸に絡んできた酔客と乱闘騒ぎを起こし、翌日は二日酔いに襲われるのだが、そんなことで懲りる紅緒ではない。少尉や父親の振る舞いに腹を立て、憂さ晴らしの酒をあおっていた店で軍人たちとひと悶着。またまた大乱闘の結果、少尉の上官の恨みを買ってしまう。その一件が原因で少尉は北九州の師団に転属となり、シベリアに派兵されることになるのだから、やはり酒乱は恐ろしい。
しかし、逆に言えば、ここから物語が大きく動き出すわけで、紅緒の酒乱あってこその波瀾万丈なのである。少女マンガのヒロインとしては破格と言うしかない。
【5杯目】大和和紀『はいからさんが通る』◎少女マンガなのにヒロインが酒乱!?
酒乱あってこその波乱万丈ストーリー
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