オミクロン株、弱毒でも楽観してはいけない深刻理由。空港検疫の元トップが警告する
オミクロン株の感染が急拡大する一方で、「重症化しにくいからたいしたことはない」「弱毒化しているからこれでコロナもおわり」といった声も聞かれる。
しかし、「決して楽観できる状況ではない」と警鐘を鳴らすのは、元成田空港検疫所長で、2021年10月から静岡市保健所長を務める田中一成氏だ。
成田空港検疫で何が起きていたのか ─新型コロナ水際対策の功罪』で、コロナ対策の最前線から提言を行っている。その田中氏に、オミクロン株をめぐる現状を聞いた。
――現在、保健所はどういう状況なのでしょうか?
田中一成(以下、田中):陽性者の届け出を受け、情報を集めて入院が必要か自宅待機かを判断し、入院となれば医療機関へアレンジし、自宅療養の人に対しては可能な限りフォローを続ける。濃厚接触者やクラスターの発生を調査もあり、保健所の業務もかなり逼迫しています。市役所から応援をもらったり、外部の医療機関や医師会などに協力いただいてますが、人手はまったく足りていない状況です。
ーーオミクロン株の何がいちばん厄介なのでしょう?
田中:感染拡大のペースですね。本当に早い。南アフリカで発生した変異株がわずか3か月で全世界に広がり、日本でも1日に8万人を超える感染者(1/28)を出す状況になっている。恐るべき感染力をもったウイルスです。
――とはいえ、重症化しにくいんですよね。
田中:確かに今のところ、症状が軽い人が多いのは確かです。ただ、オミクロンの場合、感染者の7〜8割を10代〜30代が占めます。活動が活発な人たちですから、いわば、ウイルスが自在に動ける機動力を手に入れたようなもの。
症状が軽いといっても、感染拡大のその先には、高齢者や基礎疾患のある人、ワクチン未接種の子どもたちがいる。そこに簡単にたどり着いてしまう。先日、静岡市で国内初のオミクロン株感染者から死者が出てしまいましたが、この方はかなり重い基礎疾患をもつ高齢者でした。
――結果、医療体制を逼迫する。
田中:すでに、医療機関も人手が足りなくなっています。静岡市でも医師会と協働しながら、体制を整備して受け入れ患者数を増やしてもらっていますが、一方で、救急患者を受け入れられなかったり、必要な手術ができなかったりといった状況が生じています。無症候の人が感染させてしまうため、患者からスタッフが感染して、長期間、休診せざるを得ないクリニックも多数出ています。
田中氏は、近著『
恐るべきオミクロンの感染力
ウイルスが自在に動ける機動力を手に入れた
元厚生労働省成田空港検疫所長。静岡市保健所長(2021年10月より)。
1987年、山口大学医学部卒業。1991年、山口大学大学院医学研究科修了、医学博士。山口大学医学部助手、厚生省健康政策局医事課試験免許室試験専門官などを経て、2007年、JAXA有人宇宙技術部宇宙医学生物学研究室主幹開発員。2010年、文部科学省研究振興局ライフサイエンス課ゲノム研究企画調整官。2011年、内閣府参事官(ライフイノベーション担当)。2012年、厚生労働省神戸検疫所長。以降、同・東京検疫所長、同・北海道厚生局長を経て、2018年、同・成田空港検疫所長就任。著書に『子供に教えるためのプログラミング入門』、『算数でわかるPythonプログラミング』、『成田空港検疫で何が起きていたのか ─新型コロナ水際対策の功罪』がある。
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