「日本の物価上昇」はまだこれから。世界中で進行するインフレの正体
コロナショックやウクライナ・ロシア問題なども起因し、世界中でインフレが進む現在。日本も4月の消費者物価指数が7年1か月ぶりに2%を超えた。しかし、欧米に比べると日本の物価上昇率は低いままだ。その理由について、経済評論家の上念司氏が解説する。
(以下は、上念司著『あなたの給料が上がらない不都合な理由』の一部を編集したものです)
現在アメリカのインフレ率は7%、イギリスで6%、EUは5%。これが一時的なモノなのか、長期的に定着するのか、今年が正念場です。アメリカのFRBは金融引き締めを行ってインフレを抑制しようと頑張っていますが、仮に7%から4%に着地したとしてもまだ高いですよね。
そんな中、ひとり日本だけが未だに物価上昇率がゼロ近傍となっています。日本だけがこの傾向に乗り遅れ、古いトレンドのまま進行するのか? 私はそうは考えていません。今の日銀の金融緩和の枠組みが維持されるのなら、日本は近い将来インフレ率でも欧米に追随していくものと思われます。
現在、私たちが見ている消費者物価指数には少し特殊要因があり、そのせいで下に押し下げられている部分もあるからです。その特殊要因とは、菅内閣による携帯電話料金の大幅値下げです。総務省統計局が発表した2021年11月の消費者物価指数を使ってその影響がどれぐらいあったのかをお示しします。まずこちらが全体の数値です。
【以下引用】
(1)総合指数は2020年を100として100.1、前年同月比は0.6%の上昇、前月比(季節調整値)は0.3%の上昇
(2)生鮮食品を除く総合指数は100.1、前年同月比は0.5%の上昇、前月比(季節調整値)は0.3%の上昇
(3)生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は99.2、前年同月比は0.6%の下落、前月比(季節調整値)は0.1%の上昇
【参考:「2020年基準消費者物価指数全国2021年(令和3年)11月分」『総務省統計局公式HP』】
次に、2021年11月の通信費の項目を確認してみましょう。なんと前年同月比マイナス33.9%。大幅な落ち込みを確認できます。菅さん本当にやりとげました。しかし、こんな大幅なマイナスが物価統計に反映されると大変です。消費者物価指数はサンプル品目の値段とウエイトを掛け合わせることで求める加重平均です。携帯電話料金などを含む通信費が(1)の総合指数に占めるウエイトは441/10000となっております。値下げ幅とこのウエイトを単純に掛け合わせると……
マイナス33.9×(441/10000)=マイナス1.49499%
携帯電話の値下げの影響だけで総合指数はざっくり1.5ポイント下に引っ張られてしまいました。ということは、11月の総合指数は前年同月比0.6%の上昇ではなく、2.1%の上昇だった可能性が高いということです。
とはいえ、総合指数には生鮮食品やエネルギー価格も含まれており、天候不順や海外で戦争があったりすると大きく変動します。真の物価と言うには不安定すぎる。そこで、これら2つの要素を除いたのが(3)のいわゆる「コアコア指数(コアコアCPI)」です。
コアコア指数についても携帯電話の値下げの影響を調べておきましょう。消費者物価指数のウエイトは総合指数で合計10000、コアコアで合計8892になるように設定されています。なので、分母を10000から8892に変えて再計算すると……
マイナス33.9×(441/8892)=1.6812%
なんと、コアコアCPIの場合、携帯電話代だけでマイナス方向に1.68%も引っ張られているとのことが分かりました。2021年11月のコアコアCPIはマイナス0.6%でしたが、携帯電話の影響を除くと……
マイナス0.6マイナス(マイナス1.6812)=1.0812%
すでに物価は2021年11月時点でプラス1%前後まで上がってきているということが分かります。年明け以降はオミクロン株などの影響により、物価は全体的に前年よりはマイナス傾向となっていますが、今後、経済活動が再開して、燃料費高騰や人手不足を背景とした値上げが進むと、やはり物価は上昇する可能性が高いと言えるのではないでしょうか。
日本は欧米のインフレ率に追随する?
物価は上昇する可能性が高い!?
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1969年、東京都生まれ。経済評論家。中央大学法学部法律学科卒業。在学中は創立1901年の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任(現在は代表取締役)。2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一名誉教授に師事し、薫陶を受ける。リフレ派の論客として、著書多数。テレビ、ラジオなどで活躍中
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