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挙国一致内閣が必要だ<自民党衆議院議員・村上誠一郎>

―[月刊日本]―

これで民主主義国家と言えるのか

国会議事堂―― 岸田首相は国会の会期末に衆議院を解散するかのような素振りを見せていましたが、結局解散を見送りました。いったい何がしたかったのか、理解に苦しみます。 村上誠一郎氏(以下、村上) 岸田首相は自らの権力基盤を強化するために解散を狙っていたのだと報じられていますが、そうであるとすれば、策に走りすぎです。もし解散するのであれば、「この政策をどうしても実現したいので、衆議院を解散して国民に信を問う」といった大義名分が必要です。  しかし、現状、岸田首相からは「どうしてもこれがやりたいんだ」という政策や信念が見えてきません。突然防衛費を倍増したり、異次元の少子化対策に取り組むと言い始めるなど、実際のところ何がやりたいのかよくわかりません。  国民の間にも岸田政権に対する不信感が広がっていると思います。通常国会閉会後に行われた読売新聞の世論調査では、岸田内閣の支持率は56%から41%に急落しました。解散権を弄びすぎたので、政治家として芯がないと見られてしまったのではないでしょうか。一部では、秋口に解散が行われるのではないかという見方もありますが、いまの状態ではとても無理ではないかと思います。 ―― 本来なら、自民党がもっと強く岸田首相を牽制し、解散権を弄ぶような真似を阻止すべきだったと思います。岸田政権は安倍政権ほど権力基盤がしっかりしていないはずなのに、自民党議員たちは安倍政権時代と同様、岸田官邸に追随しているように見えます。 村上 安倍政権時代より悪化していると思います。安倍政権のころは、まだ面と向かって安倍首相の問題点を指摘する人もいました。しかし、いまはすっかり官邸に隷属してしまっています。防衛費を倍にしたり、敵基地攻撃能力を認めて専守防衛をやめると言っているのに、党内から目立った批判は出ず、まともな議論も行われていません。私が総務会にいたら絶対に反対していますが、役職停止になってしまったので、異論なく通ってしまいました。  また、困ったことに連立与党の公明党も岸田政権に追随しています。公明党は平和と福祉の党だったはずですが、安倍政権時代には集団的自衛権を認め、今回も防衛費の倍増や敵基地攻撃能力を容認してしまいました。もちろん公明党のことは公明党が決めればいいのですが、公明党の支持母体である創価学会の皆さんは内心忸怩たる思いを持っている気がします。  さらに問題なのは、野党まで岸田政権を的確に批判しないことです。私が特に驚いたのは、先の国会で立憲民主党が提出した内閣不信任案に賛成したのが、共産党と社民党だけだったことです。野党はどこへ行ってしまったのでしょうか。これでは戦前の大政翼賛会と何も変わりません。こんな状態で民主主義国家と言えるのか、非常に懸念しています。

移民の真剣な検討が必要

―― 岸田首相は異次元の少子化対策を政権の目玉にしたいようです。そのための追加予算は年3兆5000億円とされていますが、財源をどうやって確保するのか具体案がまったく示されていません。 村上 異次元の少子化対策が本当に有効かどうか、疑問です。私は昭和27年(1952)生まれですが、私より少し上の世代は年間270万人もの子どもが生まれていました。しかし、いまは80万人を割り込んでいます。つまり、この間に出生数は約3分の1にまで激減しています。婚姻率も下落傾向が続いています。これに歯止めをかけ、再び出生数を増やすのは至難の業です。  本当に出生数を増やそうとするなら、どこにどれだけのお金を使えばどういう効果がある、といった計算が必要です。しかし、防衛費の倍増と同様、4兆円近くの追加予算がどのような根拠に基づいているのか不透明です。端的に言って、子育て支援のバラマキにしか見えません。これではいくらお金をつぎ込んでも、出生数が増えることはないでしょう。日本の財政が健全な状態ならまだしも、世界最悪の財政状況の中で、根拠がはっきりしない政策に財政を使うべきではありません。  そもそも、日本が抱える問題は少子化だけではありません。高齢化対策も喫緊の課題です。  私が若いころの人口比率では、1人の高齢者を8人の現役世代が支える形になっていましたが、2000年代に入ると1人の高齢者を3人の現役世代で支えなければならなくなり、将来的には1人の高齢者を1人の現役世代で支えなければならなくなります。いわゆる肩車型社会です。  認知症対策も急務です。2025年には認知症の高齢者が約700万人に上ると推計されています。しかし、最近の指標では2040年までに労働の担い手が1000万人以上不足すると見られているので、このままでは認知症を介護する人が足りなくなります。老老介護どころではありません。  もちろん、少子化対策をする必要はないと言っているのではありません。しかし、少子化対策は効果が出るまでに時間がかかります。人口が増えるのを待っていては、とうてい現在の状況に対応できません。  事ここに至った以上、私は移民について真剣に検討すべき時が来たと思っています。厚労省は50年後には日本の人口の10人に1人が外国人になると想定しています。しかし、先の国会で改正入管法が多くの批判を浴びたように、日本では外国人の人権に対する意識が希薄です。ただでさえ円安によって日本で働くメリットは小さくなっているのに、人権まで守られないとなれば、わざわざ日本に働きに来る外国人はますます少なくなるでしょう。人口減少を踏まえ、長期的展望に基づいた人権重視の入管法を作らなければならないと思います。
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げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

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