デイサービスを運営する男性介護士が語る、高齢者介護の実情「お婆さんにキスを迫られたことも」
厚生労働省の発表によると、2023年7月31日時点での日本人の平均寿命は、男性が81.05歳、女性が87.09歳だ。また、2020年度の要介護(要支援)認定者数は約682万人で、前年度に比べ約2.0%増加している。介護保険制度がスタートした2000年度の認定者数約256万人と比べると約2.66倍に増加している。少子高齢化に伴い、介護を受ける人数は増えても、介護する側の人間が足りない。
そんな中、東京都西多摩郡瑞穂町で、「二本木交茶店」というデイサービス事業所を運営する坂本孝輔氏(49歳)に高齢者介護の現状を聞いた。坂本氏は、2023年7月に、藤原るか氏と共著で『認知症の人の「かたくなな気持ち」が驚くほどすーっと穏やかになる接し方』を出版し、版を重ねている。日本のみならず、海外での翻訳オファーも来ているほどの注目の書だ。
そんな坂本氏は、なぜ高齢者介護の道を選んだのだろうか。坂本氏は東京都新宿区で生まれ育った都会っ子だ。都立高校を卒業後、東京福祉専門学校に進学する。
「本当にやりたいことがありませんでした。周囲の友だちが大学に行くのがバカみたいに見えた。特にやりたいこともなく、消去法で介護の専門学校に行きました」
高校時代、バレーボール部だった坂本氏の先輩の影響も大きかった。先輩が同専門学校に進学したのを知り「福祉って仕事なんだ」と思ったという。当時はボランティアと福祉職の区別がつかなかった。
坂本氏が高校2年の頃、大好きだった祖父が半年の闘病を経て、病院で亡くなった。亡くなった直後、坂本氏のお母さんが祖父のオムツを交換した。
「その時に初めて、同性のお祖父ちゃんの陰部を見ました。オムツにはまるでキーマカレーのような色の水のような便がついていた。その光景に吐き気がしたんです。可愛がってくれた祖父なのに、申し訳ないと思いました」
その思いが心残りでもあった。「お祖母ちゃんの介護が必要になった時には、オムツの交換ができるようになりたい」と思ったが、オムツ交換への抵抗感は大きかった。東京福祉専門学校には社会福祉課と介護福祉課があったが、オムツ交換に自信がなく、社会福祉課を選ぶ。
「名前から社会福祉課を選びましたが、ナーシングホームに実習に行きました。お祖父ちゃんのときのように水のような便をしている高齢者がたくさんいて、便や尿が手につくことにもすぐに慣れてしまいました」
「福祉って仕事なんだ」介護の専門学校へ進学
かわいがってくれた祖父のオムツを見て「吐き気がした」
立教大学卒経済学部経営学科卒。「あいである広場」の編集長兼ライターとして、主に介護・障害福祉・医療・少数民族など、社会的マイノリティの当事者・支援者の取材記事を執筆。現在、介護・福祉メディアで連載や集英社オンラインに寄稿している。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1
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『認知症の人の「かたくなな気持ち」が驚くほどすーっと穏やかになる接し方』 認知症対応の手練れ2人が教えるノウハウ |
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