風俗嬢にはなぜ“元美容師”が多いのか?
―[山田ゴメス]―
得てして風俗嬢というのは、ギャル風であろうが赤文字系女性雑誌風であろうがコンサバ系であろうがストリート系であろうが、どこかファッションのディテールのツメが甘かったりするものだが、稀に「ああ……このコ、お洒落だな」と感心させられる嬢に当たったりすることもなくはない。で、そういう子たちと会話がはずんで前職の話題になると、「前は美容師やってたんですよ」、「美容学校出てるんですよ」といったケースがとにかく多いのだ。なぜ?
幸運にも“元美容師”の経歴を持つ現役風俗嬢のY美さんと知り合う機会があったので、口説きも兼ねて、じっくりそこらへんのことをうかがってみたいと思う。ちなみに、Y美さんは身長165cm強。男用っぽいダブダブめジャケットをスキニージーンズに合わせたちょいストリート系ファッションで、バストはB~Cカップ。髪は肩にかかるほどのストレート・セミロング&色は軽いアンバー系。あえてタレントにたとえるなら、大きな口が水原希子似といった感じである。恵比寿にある某気取っている系バーの個室にて、じっくりお話を伺った。
――というわけで、今日はせっかくのアフターチックなデートスタイルなんだし、時間の許すかぎり、根掘り葉掘りリサーチさせていただこうかと……。風俗の子とお店で会っても、会話できる時間はせいぜい10分くらいですからね。
Y美:男の人と、こういうかたちで飲むの、久しぶりなんですけど。
――そうなんですか? 普通にモテそうな感じですけどね。
Y美:風俗のコって、彼氏がいても同棲しているケースが多いので、きちんとしたお店でデートすることなんて滅多にないし、仮に女のコと一緒にとか一人で飲むときも職場の近くばっかで……。渋谷の店で働いてるなら道玄坂あたり、みたいに。あと、キャバクラと違ってお客と外で会う必要も基本、ないですから。
――意外と地味な私生活なんですね?
Y美:やっぱり、心のどこかに“風俗で働いている”というコンプレックスがあるんだろうな……。長くやればやるほど、“普通の仕事をしている人”との交友関係が自然と切れていってしまうんですよ。
――なるほど……。で、僕が抱いている「風俗嬢は元美容師が多い」という印象は、ぶっちゃけ当たってます?
Y美:う~ん……、なんとなく外れてないような気はします。私も1年前までは美容室で働いてたわけだし……。
――ちなみに、Y美さんの簡単な経歴を教えていただきたいのですが?
Y美:群馬県で生まれて、地元の高校を卒業してから上京し、都内の美容学校に通いました。卒業してからは、原宿や表参道ではなく、新宿から急行で30分くらいの駅近くにある郊外のサロンに就職して、3年でスタイリスト(一人でお客の髪をつくる資格のある美容師のこと)になりました。今、27歳です。お店では21歳ってことになってますけど(笑)。
――お店、とは?
Y美:もちろん、今働いている風俗店のことですよ。渋谷にあるデリヘルです。
――話を元に戻します。23歳くらいでスタイリストになったわけですね。かなりのスピード出世だと思うのですが、そんな順風満帆な美容師人生を歩んでいたのに、なんで辞めちゃったんですか?
Y美:疲れちゃった……? 私が働いていたような小さな店では、人がいないから、スタイリストもアシスタント仕事を兼ねなきゃいけないんですよ。若いスタイリストは頼りなく見えるのか、お客もなかなかつかないし……。とくに、わたしは見た目が実年齢より若く見えるので(たしかに「21歳」と言われても、なんら違和感はなし)、厳しかったですね。なので、見た目年齢が実年齢に追いつくまで休憩しようか、と……。一応、「スタイリスト」という肩書きは履歴書に書けるので、条件さえ選ばなければ、いつでも復帰できますから。
――“休息”にもかかわらず、どうしてデリヘル、なんでしょう?
Y美:実は美容師時代から、たまーにやってたんですよ。アシスタント時代はカツカツの生活だったし、スタイリストになっても駆け出しは給料だってほとんど上がらないから、貯金も全然なかったし……。美容師の世界って、古い職人気質みたいなものがまだ残っていて、極端な話「ウチで修行させてやってるんだから、お金もらえるだけでもラッキーでしょ?」くらいに、経営者側はマジで思ってますから。独立するか、せめてサロンのトップスタイリストにでもならないと、お金は稼げない。
――つまり、薄給で“修行”する期間が、下手すりゃ10年以上にもおよぶってことですね?
Y美:そうなんです。だから、実家がお金持ちで仕送りを送り続けてもらえるようなコ以外は、時間の融通がきいて短時間で稼げる“バイト”に、つい走りがちなんですよ。となれば、風俗が一番手っ取り早かったりするじゃないですか。そして、昼も夜も働き通しで体もヘトヘトになって……、結局はつらいほうの“本職”を辞めて“バイト”が“本職”になっちゃう。「風俗嬢に元美容師が多い」と感じるのは、そういう理由が大きいのではないでしょうか?
――別の昼の仕事に就こうとは考えなかった?
Y美:やったことない昼の仕事を一から覚え直してたら“休憩”になりませんからね。だったら、昔ちょっとやってたことのあるデリヘルでいいか……と。1か月に10日も入れば、充分OLさんと同じぐらいの生活はできますし、現に“昔”やってみて、そこまで嫌悪感も感じなかったので。
――「嫌悪感を感じなかった」というのは、デカいポイントなんでしょうね? 生理的に見知らぬ男と粘膜の交換をする行為を受け入れられない女性って、やはり多いですから。
Y美:“お客さんに触れる仕事”って意味で、美容師と風俗は似てると思うんです。そこも「風俗嬢に美容師が多い」理由のひとつなのかもしれません。何日も洗ってない汚い髪のまんまでくるお客さんも、けっこういますからね(笑)。
――今、プライベートはどういう過ごし方をしているのですか?
Y美:お休みのときは、だいたい家に引きこもって猫と遊んでます。あと、最近はAV女優もやり始めたりして……。
――セックスが好きで好きでデリヘルだけじゃヤリ足りない、と(ニヤリ)?
Y美:いや、エッチは“人並みに好き”程度……かな? それよりは役柄中いろんな洋服を着させてもらえたり、髪やメイクをいじっていた側からいじってもらえる側になるのが楽しかったりするんですよ。近ごろ、お店と家の往復だけなんで、単純にお洒落して外にも出たいですしね。
美容業界経験者が風俗嬢になりやすい一端は掴めたようにも思えるが、これはあくまでひとケース。今後もさらに調査を進めていきたいと思う。 <取材・文/山田ゴメス>
【山田ゴメス】
1962年大阪府生まれ。マルチライター。エロからファッション、音楽&美術評論まで幅広く精通。西紋啓詞名義でイラストレーターとしても活躍。日刊SPA!ではブログ「50にして未だ不惑に到らず!」(https://nikkan-spa.jp/gomesu)も配信中。現在「解決!ナイナイアンサー」(日本テレビ系列)に“クセ者相談員”として出演。『クレヨンしんちゃん たのしいお仕事図鑑』(双葉社)も好評発売中!大阪府生まれ。年齢非公開。関西大学経済学部卒業後、大手画材屋勤務を経てフリーランスに。エロからファッション・学年誌・音楽&美術評論・人工衛星・AI、さらには漫画原作…まで、記名・無記名、紙・ネットを問わず、偏った幅広さを持ち味としながら、草野球をこよなく愛し、年間80試合以上に出場するライター兼コラムニスト&イラストレーターであり、「ネットニュースパトローラー(NNP)」の肩書きも併せ持つ。『「モテ」と「非モテ」の脳科学~おじさんの恋はなぜ報われないのか~』(ワニブックスPLUS新書)ほか、著書は覆面のものを含めると50冊を超える。保有資格は「HSP(ハイリー・センシテブ・パーソンズ)カウンセラー」「温泉マイスター」「合コンマスター」など
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