「新生民主党」の経済政策ってどーなの?
6月25日、国会が閉会し、「改選組」の議員たちはみな一斉に地元選挙区に飛び立った――。
7月4日公示、同21日投開票となる今回の参院選は、国政選挙としては比較的長丁場となる17日間に渡って繰り広げられるが、今回の選挙の争点はズバリ! 発足半年となる安倍政権の信任投票にほかならない。
改憲、原発、TPP……など、国論を二分するような大きなテーマが山積しているものの、与党自民党はこの半年間の経済政策、つまりは「アベノミクス」の中間成果を訴える選挙戦術に打って出ると見られている。
ここ1か月こそ株価が乱高下する局面も見られたが、政権発足後、一時は50%以上も日経平均を押し上げ、少しずつだが各種経済指標も好転している。「アベノミクス」という幻想がよくも悪くも“景気楽観論”を生んだのは事実であり、これを裏付けるように、内閣支持率も「68.0%」(共同通信社6月初旬調べ)と高い数字をキープしたまま。アベノミクス頼みの選挙となるのは当然の話と言えよう。
だが、このアベノミクスの狂騒で完全に埋没してしまったのが、昨年末の総選挙、先月の都議選とも防戦一方で惨敗した野党民主党の経済政策だ。
政権交代を成し得た2009年の総選挙直前には、自民・民主両党が掲げた政策を対比しながら各党の議員がテレビカメラを前に論じ合う討論番組などをよく見かけたものだが、今回の参院選を前に、あのときのような光景にはとんと出くわさなくなった。
新規まき直しを図る民主党が、アベノミクスに対抗してどんな経済政策を訴えているのか……? 実は6月25日、民主党本部にて、参院選に向けたマニフェストがひっそりと発表されていたのだ。
「暮らしを守る力になる。」と大きく墨文字で書かれた新生民主党のマニフェストの表紙には、「生活者起点」のキャッチも。(1)被災者に寄り添う、(2)中間層を厚く、豊かに、(3)いのちを大切にする社会へ、(4)未来へ、人への投資、(5)未来志向の憲法を構想する、(6)戦略的な外交、確固たる防衛 (7)改革続行……など、新しいマニフェストは7本の柱で構成されている。そして、経済政策を綴った「くらし/経済」のページを紐解くと、「景気回復? 実感できないなあ…」と題された見開きの漫画が。縁側でくつろぐ老夫婦2人の「また物価が上がるのか?」「年金は上がらないのになぁ…」というボヤキから始まるこの漫画は、この後彼らの息子夫婦と孫3人が、電気代やガソリン代、さらには小麦粉などの値上がりが止まらない現状を嘆くストーリー仕立てになっている。
学習院大学教授の村瀬英彰氏が話す。
「大企業寄りに映るアベノミクスと、民主党の経済政策のもっとも大きな違いは、企業と個人(家庭)を対立的に考えている点でしょう。今回の民主党のマニフェストを見ても、『人への投資』をことさら強調しているように、古の資本家vs労働者の構図とは言わないまでも(苦笑)、以前にも増して先鋭化している印象ですね」
「人への投資」という言葉を聞いて、「コンクリートから人へ」という懐かしいキャッチコピーを思い出す人もいるかもしれないが、確かに、今回発表した民主党のマニフェストを眺めると、「中間層を厚く、豊かに」に始まり、「中小企業に政策資源を集中」「働く人を大切に」といった具合に、共生社会を目指した生活者目線の経済政策をアピールしているように映る。アベノミクスは大企業に寄り添ってばかりで景気回復を実感できない……そんな不満を抱える中間層をすくい上げようという意図から作られたのだろう。
「現在の民主党がそうした生活者の心を捉えにいってる感はありますね。民主党のように企業と個人の対立を前提にした政策よりも、企業と個人が力を合わせて潤うような政策のほうがいいのですが、現実的にアベノミクスは個人が潤うまで多少の時間がかかる……。我々、国民からすれば、どちらに重点を置けばいいか悩ましいところはあります」
民主党の経済政策をアベノミクスとの対比で見るなら、「矢」の1つである機動的な財政出動にはむしろ否定的だ。「農家の戸別所得補償」や「子育て支援」「高校の授業料無償化」といった弱者救済の目線を前面に押し出し、安倍政権が大盤振る舞いで進める公共投資を批判しているだけあり、「財政健全化責任法」を制定すべきとも訴えている。
「アベノミクスの財政出動は、経済が低迷しているときには財政でテコ入れするという伝統的なスタイルで、先祖返りとも言えるでしょう。一方、民主党は『人への投資』を掲げるように、個人に対して直接的にお金が回るようなスタイル。本来は、いいことだし、望ましいのですが、実現できるかは疑問です……。多少古くても実現できるアベノミクスの財政政策のほうがいい、と考える人は多いでしょうね。また、アベノミクスのもう1つの「矢」は金融政策ですが、民主党のマニフェストのどこを見ても対応するような政策がない……。というのも金融緩和とは、個人よりもまず企業に有利な政策。民主党は企業より個人重視なので、金融政策を盛り込めなかったのでしょう(苦笑)。一方、アベノミクスによって金融は緩和され、資金の供給が増えたが、企業の経済活動が活発になるのは資金の需要が増えたとき。需要が活発なのがいい経済と言えますが、供給を増やすことで、需要を増やしてくれとお願いしているようなもの。つまり、間接的な施策になっている。企業を元気にする直接的で効果的な政策は法人税減税ですが、いまだ実施されていません」
アベノミクスの「第3の矢」である成長戦略に該当するのは、脱原発を前提とした省エネルギー、分散型エネルギー社会の実現になるだろう。安倍政権が引き続き目標に掲げている思い切った法人税の減税に対しも、「中小企業を重点的に支援する税制強化」という文言で対抗している。
「自民党の政策との最大の違いは『2030年代に原発稼働ゼロ』と『省エネ社会の実現』ですが、与党のときに脱原発を宣言してしまったので、必然的に違いが生まれたに過ぎない。一方、アベノミクスの成長戦略は期待外れで具体性に欠けるものだったが、私はこれでよかったと思っています。というのも、ひと昔前は政府が民間をあまり誘導してはいけない、という考えが支配的でした。仮に、今回の成長戦略が素晴らしいものだったとすれば、政府が民間の行く末を決めてしまうことになる。政策が具体性に欠けるということは、それだけ民間に自由度があるわけです。国に頼っているような民間企業に自立的な活力など生まれようもありませんから。まぁ、これからアベノミクスの信任を問う参院選に突入するわけですが、自民、民主両党がそれぞれ訴えている経済政策を聞く限り、短期的に見れば実現可能性が高いアベノミクスのほうがいいでしょう。ただ、長期的に日本のことを考えれば、やはり理想は必要で、民主党の経済政策にも評価すべき点はいくつもある。自民党は企業寄り、民主党は個人寄りといった経済政策ですが、どちらも日本の力には変わりないですから。企業と個人のいずれかに肩入れするのではなく、両者の力を総動員するようになればいいのですが」
昨年末の総選挙の際は、「すべて嘘っぱち」とのそしりを受けた民主党のマニフェストだが、新生民主党となりどう新味を出して訴えていくかも、解党的出直しを迫られた今大事なことなのだろう。 <取材・文/日刊SPA!取材班>
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