都知事選の裏でファシストが原発推進候補(?)をほめごろし【街宣車同乗ルポ】Part2
⇒【Part1】はこちら
◆街宣車に乗ってみた!
外山恒一氏は都知事選が始まってから、毎日、一般参加者を募りマイクパフォーマンスのコツを教え、20時以降は高円寺で街宣車に乗れなかった人たちとも一緒に集会を開いていた。ツイッター上でその集会のことを知り、どんな人が集まっているのかと都知事選も後半戦にさしかかった2月4日に潜り込んでみたところ、大変なカルチャーショックを受けた。
世間的には右翼と呼ばれる政党に属している若者(維新政党・新風の広報担当、山本和幸氏)と、ゴリゴリの左翼学生運動をしているという学生がにこやかに談笑している一方で、画家の青年が政治について熱い意見を交わし合っている。さらにその脇では、スピリチュアルな話に華が咲いている。まさにカオスだ。
右翼青年・山本氏に「田母神さんをほめごろしている人のところで飲んでていいの?」と聞くと、ニヤリと笑って「いや、ここは田母神さんをほめている人たちの集まりですよね。何が問題なんですか」とスカされる。山本氏と談笑していた左翼学生に「彼とはケンカにならないの?」と聞くと「いや、考え方が違いすぎて思想の話はしないですから。まあ、いずれ世界革命のために殺し合うこともあるかもしれませんが」とこれまたスカされる。
本気なのか、冗談なのか判別がつかない。だが、いたって穏やかに、しかし真面目な政治談義や翌日の街宣マイクパフォーマンスのアイデア出しが朝まで続く(外山氏は翌日の街宣があるので、途中で帰ったが)。
このわけのわからなさは何なのか? 俄然、興味が膨れあがり、外山氏の「ぜひ街宣車に乗ってみてくださいよ」という勧めもあり、2月6日に取材者として街宣車に同乗させていただくことにした。
朝10時、集合場所である高円寺南口公園で待ち構えていると、「原発賛成音頭」を流している白いバンが登場。同じく公園で待っていた金髪の若者と一緒に乗り込むと、挨拶もそうそうに、外山氏が「まず、1時間ぐらい私が街宣をしますから、それを聴いて参考にしてください。それとこれは選挙活動ではないから、選挙関連ワードはNG。また、特定候補に投票しようとか、投票するなといった呼びかけもダメです」と若者にレクチャーすると、車は高円寺を出発。早速、外山氏がマイクパフォーマンスを始める。
「原発賛成。こんな国、滅ぼしましょう、原発で。原発推進の舛添氏を勝手に応援しています」
「私たちはテロリストでございます。アルカイダの友達の友達ぐらいでございます。私たちテロリストの標的である原発を残していただける舛添氏を勝手に応援しています」
道行く人々の反応はまちまちだ。笑う人、顔をしかめる人、手を振る人。手を振る人たちの中には、外山氏の活動を認知して笑っているような人もいれば、本当に舛添氏の応援だと勘違いしている人もいるのかもしれない。
だが、舛添氏は自身を「私も脱原発派」と語り、エネルギー政策について問われると「(原発は)少しずつ減らしてゼロにする」と回答している。
「舛添さんは原発推進派ってことで街宣していいんですかね?」と尋ねると、外山氏は「舛添要一さんは『ずっと脱原発』と経歴詐称してますが、騙されてはいけません。過去にはさまざまなメディアで原発推進派としてコメントしていましたよ」という。
この件について、ますぞえ要一選挙事務所に問い合わせたところ、「質問はFAXで送ってください」とのこと。質問状を送ったが、残念ながら設定した締め切り日までに回答は得られなかった。
車が出発してしばらくすると、パトカーがこのバンの後ろについた。街宣車に初めて乗る私と金髪の若者が「尾行ですかね?」と話していると、外山氏が「別に僕たちの車を追っているわけではないですよ」と笑う。果たして、すぐにパトカーはいなくなった。その後も交番の前を何度も通ったが、警官たちはこちらに注意は払うものの、声を掛けてくることもない。おそらく外山氏のことを認識しているのだろう、笑っている警官も何人も見かけた。
この日のバンには、外山氏を密着取材している反原発カメラマンの秋山理央氏も同乗しており、「外山さん、今日は舛添さんのことしか言っていませんね」と指摘する。このほめごろし活動を開始したときは、舛添氏と田母神氏を「応援します」と言っていたそうだが、世論調査で舛添氏優位が伝えられたあとからは、舛添氏だけを標的にしている、とのことだ。
「僕の街宣が選挙結果に影響を与えるとは1mmも思っていないんですが(笑)、僕のあとに続く人たちに対して、少しでも有効な方法を伝えたほうがいいと思って、舛添一本に絞ったんですよ」(外山氏)
さて、車は新宿方向に向かい、外山氏が金髪の若者に「そろそろやってみますか?」とマイクを回す。慶応の学生で外山氏に興味があって参加したという彼だが、緊張からかどうもたどたどしい。しばらく若者に任せていた外山氏だが、「ちょっといいたいことを紙に書いてまとめてみましょう」とアドバイス。メモをつくった若者が再びマイクパフォーマンスを始めると、見違えるように上手なしゃべりになっている。
「アドリブでやろうとすると失敗するから。僕だって、アドリブでやっていないんだから。あと、走っている最中は短いフレーズを繰り返し、信号で停まっているときは、少し長めでいつでも終わらせられる言葉を組み立てておくのがコツ。さらに言うと、街中の人たちを笑わせないと意味がないから。威圧的になったりすると怖がられるから、優しく語りかけるように」(外山氏)
この日の街宣車は高円寺から新宿へ抜けて原宿、新宿と山手線沿いに新橋まで向かう。どこを街宣するかはその日の朝に決めるそうで、新橋で金髪の若者が降りたあとは、次の参加者を迎えに四谷、高田馬場へ。彼らも街宣をするのは初めてだそうで、最初の金髪の若者と同様の指示をし、彼らにマイクパフォーマンスをさせながら、車は上野、神田へと向かうこととなった。
これまではひたすら原発推進派をほめごろしてきた外山氏だが、神田へ向かったのには別の目的がある。前衛芸術家という側面も持つ外山氏は、2つのビルの前でこんな街宣を始めたのだ。
「『美術手帖』編集部の諸君! なぜ『美術手帖』は外山恒一特集をやらないのか! 芸術を名乗らないと芸術のアンテナにひっかからないようでは、美術ジャーナリズムはつとまりませんぞ! 猛省を促します。ただいま原発推進派ほめご……いや、大絶賛キャンペーンを展開中の外山恒一でございますが、思うところあり、『美術手帖』編集部に説教をしにまいりました。『美術手帖』は外山恒一を特集せよー! (声色を変えて)特集せよー!×シュプレヒコール2回。よろしくお願いします」
「さまざまな美術特集を掲載されている『ユリイカ』編集部の皆様。なぜ外山恒一特集号を出さないのか。私たちはとても不思議に思っております。芸術を名乗らないと芸術のアンテナにひっかからない。そんなことでいいんでしょうか? 『ユリイカ』編集部は外山恒一を特集せよー! (声色を変えて)特集せよー!。よろしくお願いいたします。」
これは、高円寺での集会で外山氏が思いついた「威力営業」だそうで、ジャンルは違えど同じ出版業界に身を置く者として、こんな街宣が来たらいやだなー、と思いつつ、16時に街宣車を降りた。
この間、6時間、一切の食事休憩とトイレ休憩なし。ひたすらストイックに車の運転とマイクパフォーマンスを続けた外山氏。あとで聞いたところによると、20時まで何も食べずに街宣を続けたそうだ。その集中力には頭が下がる思いだ。
⇒【動画】今回の街宣では外山氏以外の参加者もマイクを握った。画像は活動家のマイクだが、学生から社会人までさまざまな人が参加した。(撮影/秋山理央氏)
【Part3】に続く⇒https://nikkan-spa.jp/586205 <写真提供/秋山理央 取材・文/織田曜一郎(本誌)> ― 街宣車同乗ルポ【2】 ―
【Part3】に続く⇒https://nikkan-spa.jp/586205 <写真提供/秋山理央 取材・文/織田曜一郎(本誌)> ― 街宣車同乗ルポ【2】 ―
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