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置き去りにされる「6割以上の人々」<著述家・菅野完>

―[月刊日本]―

「サル発言」は波紋を呼んでいるのか

人混み

写真はイメージです

 立憲民主党の小西洋之議員による「サル発言」が波紋を呼んでいるそうである。 「いるそうである」と書いたのは、観察する範囲において当該発言を問題視しているのは、一部の新聞とネット世論だけのように見受けられるからだ。統一地方選挙前半戦、全国各地の選挙区をそれなりに巡って取材を重ねたが、現場の有権者の中に「小西議員のサル発言問題」を知っている人などほとんどいなかった。  たしかに取材中、関東某県の地方都市議会に立候補した候補者に「小西のサル発言をどう思うんだ!」と詰め寄る有権者と名乗る人物を目撃することはした。奇特な人もいるものだと思い、詰め寄られた候補者ではなく、詰め寄った側の有権者と名乗る人物をずっと観察し、当該人物が街頭演説の現場を去り付近の駐車場に帰るまでを見届けたが、当該人物が乗り込んだのは黒塗りの街宣車であった。  街宣右翼各位の意見に価値などないと言いたいのではない。よしんばこの人物の意見に従順かつ完璧に従ったところで、この人物が立憲民主党の候補に投票するとは到底考え難いと言いたいだけだ。  このわずか一例を除いて、相当の時間を費やして全国各地の有権者と話をしたものの、「小西議員のサル発言」の存在そのものを知らない人が圧倒的大多数であった。さらに立憲民主党にとって悲しい現実がある。「小西議員の問題発言」だけでなく、そもそも「立憲民主党という政党が存在していること」を知っている有権者が圧倒的に少ないのだ。  注意深く読んでもらいたいのだが「立憲民主党を支持する有権者が少ない」ではない。「立憲民主党を知っている有権者が少ない」であり、つまるところ、支持率の前に、そもそもの認知度が圧倒的に低いということだ。   このあたりの平仄は、おそらく立憲民主党の議員や立候補者などの当事者には理解できまい。立憲民主党に限らずどの政党でもそうだが、議員や立候補者は、常に、「支持してくれる人」「支持してくれそうな人」そして「クレームを入れてくる人」の三種の人々と対峙している。当然この三者は、議員や立候補者の「存在」を知っていればこそ、支持をするなり支持しそうになったり、あるいは悪罵を投げかけたりするわけだ。言い換えれば、議員・立候補者の前に現れる人々は「その議員なり立候補者なりの存在を知っている人」ばかりだということになる。

クレームに左右される立憲民主党

 一方で、統一地方選挙前半戦の投票率を見てみよう。4月9日に投開票が行われた、9道府県知事選の投票率は、統一選として過去最低だった2015年の47・14%を0・36ポイント下回り、46・78%にとどまった。41道府県議選の投票率は41・85%であり、過去最も低かった前回19年の44・02%から2・17ポイント落ち込むという惨憺たる状況となっている。  市町村議会選挙の投票率については手元に正式な統計を持ち合わせていないものの、知事選や道府県議選の低投票率を踏まえれば、さらなる低さであることは想像に難くない。つまり世の中の6割近くの人々は、そもそも選挙に行かないのだ。  選挙でさえそうなのだから、普段の政治の動きになど興味を持つはずがない。そうである以上「選挙にさえ行かない世の中の6割近くの人々」が、「支持してくれる人」「支持してくれそうな人」あるいは「クレームを入れてくる人」として、議員や立候補者の前に立ち現れることなどありえない。  結果として、議員や立候補者などの当事者には、「世の中に6割以上存在するそもそも選挙にさえ行かない人々」の感覚は伝わらないということになる。つまり立憲民主党の議員や候補者各位は、「世の中の6割以上の人々」を除外した母数の中にだけに存在する「立憲民主党を支持してくれる人」「立憲民主党を支持してくれそうな人」あるいは「立憲民主党にクレームを入れてくる人」を相手にしていることになる。大量に存在する「そもそも立憲民主党という政党が存在していることさえ知らない有権者」になど気づけなくて当然だろう。  そんな中で今般の「小西洋之の処分」は断行された。事の経緯や処分の軽重を論ずるまでもなく、「『世の中の6割以上の人々』を除外した母数の中にだけに存在する『立憲民主党にクレームを入れてくる人』に左右される」というその姿勢には、失笑を禁じ得ない
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「世の中の6割以上の人々」を直視せよ
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