番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(2)

 1年以内に政府が国会に上程するであろう『IR実施法案』の討議の過程では、利権絡みでさまざまなことが問題になるのだろうが、本稿では「ジャンケット」に絞って考えてみる。

 今年の国会で上程されるはずの政府の『IR実施法案』では、おそらく「ジャンケットは、これを認めない」とされる、とわたしは予測する。

 ただし、『IR推進法案』の付則に追加された、

――この法案の規定(IR推進法)及び第五条の規定に基づく措置(IR実施法)については、この法律の施行後5年以内を目途として、必要な見直しが行われるべきものとする。

 という一文が、怪しい(笑)。

 『IR実施法案』では排除されたはずのジャンケットが、「必要な見直し」によって認可される、という筋書きなのだろう、とわたしは更に邪推する。

 なぜわたしは、そう邪推したのか?

 もしジャンケットが不許可であれば、中国から大口の打ち手を引っ張ってこれないからである。

 わたしが本連載で少しだけ紹介してきた日本の大口の打ち手たちも、まず確実に日本国内のカジノには現れない。

 「下げ銭」が1000万円、1億円となると、ハウス側には国税庁への報告義務が必ずつくだろうから、ハイローラーたちは痛いか痛くないかは不明ながらも、その肚も探られて、いろいろと厄介な事態が生じることになりかねない。

 OZ(オーストラリア)の例を参考にすると、このハウス側の報告義務は、100万円あたりの小さな「下げ銭」から始まる。

 それゆえ、彼ら彼女らは、日本国内のカジノでは博奕を打たない。

 現にわたしの知る日本のハイローラーで、日本にカジノができたとしても、そこに通うつもりのある人は、一人も居ない。

 すると日本でオープンされる公認カジノの顧客の主な対象は、日本の小口の打ち手と韓国からのものに限られてしまう。

 そんなものに、たとえば業界最大手LVS(ラスヴェガス・サンズ社)のアデルソン会長が公言したごとく、

 「東京・大阪のカジノなら、1件1兆円」

 の投資をするのだろうか?

 わたしは、しない、と思う。

 そこで『IR推進法』の付則に「5年以内を目途として、必要な見直し」の一文が追加された。

 まずジャンケット排除で、『カジノ実施法案』を通しておく。

 しかし、綺麗ごとばかりが並んだ法案では、カジノ事業者に投資意欲は湧かない。

 それゆえ、『実施法案』成立後「必要な見直し」をおこなってジャンケットを認め、大陸からの大口の打ち手を顧客とできるようにする。

 そんな落としどころではなかろうか。

 さて、井川意高・大王製紙元会長の背任事件でも登場したジャンケットとは、いったいいかなるものなのか。

 日本社会一般では、カジノにかかわる認知および知識程度がきわめて低い。

 ジャンケットに関するそれなら、ないに等しいのだろう。

 それゆえ、

ジャンケット事業者への報酬はあくまで送客したVIPの「総ベット金額」(ゲームに賭けた金額)(=ターン・オーヴァー。森巣註)をベースとして支払われるもの。そのゲームで顧客が「勝つor負ける」事は、ジャンケット事業者の報酬には全く影響がありません。下記のリンク先では「客が負けてくれればくれるほど、ジャンケット事業者としては実入りが大きくなる」ので、「負けた人にはどんどん金を貸す」などというコメントをしている人が居ますが、これは完全に間違いです。

 なんて、カジノに関する初歩的知識すらもっていない、「日本で数少ないカジノの専門研究者」を自称する「国際カジノ研究所」所長・木曽崇なる人物も現れた(笑)。

 なんでも、

 「森巣氏を含めインチキな専門家もどきが出てきて、したり顔で嘘情報ばかり流布する」

 そうである(笑)。

 「木曽さんは法螺(ほら)がバレると、ブログやツイッターを削除したり書き換えたりしてごまかすので、すべて魚拓をとっておきましたから」

 とは、担当編集者の言葉。

 詳細は、当連載の「番外編その1・『カジノを巡る怪しき人々』」を参照願いたい。

⇒番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(3)

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PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。