番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(7)

 大手ジャンケット事業者の収入のほとんどは、ジャンケット・ルームでのアガリからくる。

 通常、カジノ事業者と大手ジャンケット事業者は、売り上げ(チップの購入額マイナス払い戻し金額が、カジノの「売り上げ」となる。会計上では「粗利」に当たる。ここを理解せずに、パチンコ業界と規模の比較をしている人たちが、日本では多い)の折半で、契約を結ぶ。

 客が勝ったらその半分を負担し、客が負けたら税引き後の半額が、ジャンケット事業者の収入となる。

 いわゆる「勝ち負け折半」なのだが、ハウス(カジノ)とジャンケット事業者の力関係で、取り分の割合は変わる場合がある。

 ハイローラーを多く握っている大手ジャンケット事業者は、当然にも立場が強くなるし、逆に弱小のジャンケット事業者は、59:41あたりで契約している例もある。

 ちょっとややっこしくなるのだが、大手のジャンケット事業者は、その傘下に多数の「サブ・ジャンケット」業者を抱える。

 実際には、このサブ・ジャンケット業者が、手間がかかる集客や顧客への対応をおこなうケースが多い。

 サブ・ジャンケット業者の契約は、ほとんどの場合「勝ち負け折半」ではなくて、客のローリング額へのコミッションだ。

 2017年2月現在、マカオではこのコミッションが1.25%を超してはならないとする「行政指導」がある。

 1億円分のローリングで、125万円のコミッション。

 1億円分のローリング、というと目を回してしまうかもしれないが、実はこれはたいした数字ではない。

 約50%の勝敗確率の博奕(ばくち)を打つのであるから、当然にも打ち手は勝ったり負けたりする。

 1000万円くらいの低い「下げ銭」でも、二日間ゲーム卓に坐っていれば、ごく普通に1億円相当のローリング額に達する。

 ただ、集客や顧客への対応(これをおこなう人を「ランナー」と呼ぶ)には、どうしても経費と人件費がかかる。おまけに、打ち手のRFB(=Room,Food,Beverages)は、業者の負担だ。

 1億円分のローリングで、125万円の収入では、やっていけない。

 そこで先に説明した「回銭」が登場する。

 負け込み「目に血が入った」賭博亡者たちに、ゼニを回す。どんどんと回す。

 これで、ローリング量が膨らむ。

 もちろん、社会的かつ経済的にも信用度が高い打ち手には、サブ・ジャンケットではなくて、最上位に位置するジャンケット事業者が直接貸し出す。

 サブ・ジャンケットには、Bクラスの信用度の打ち手が回ってくる。

 じつは、サブ・ジャンケットの下には、サブ・サブ・ジャンケットというのがいて、これは日本の広域暴力団の仕組みと同じで、ピラミッドの下辺へ三次団体・四次団体とつながる。

「債権回収」に難がありそうなCクラス以下の打ち手たちへの「回銭」は、こういった下部のジャンケットないしは関連の金融業者がおこなう。

 勝ち負け折半の契約である最上位ジャンケットを除外すると、ローリング・コミッションだけ商売するジャンケット業者は、よほどの大口ハイローラーたちを握っていなければ利益を出すのは難しいはずだ。

 ところがマカオには、ライセンスをもっているジャンケット事業者が、最盛期(2014年)には220件以上もあった(現在では180業者前後となっている)。

 なぜそんな商売が成立可能なのか?

 いろいろと考えられるのだが、主な理由は「回銭」にある。

 この部分がおいしいのである。

 特殊な例を除けば、マカオの「回銭」は2週間清算が原則だ。それまでは、金利がつかない。

⇒番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(8)

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PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。