ばくち打ち
番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(9)
前述したが、邵東明クラスの「鯨」賭人たちは、皆さん手ぶらでカジノに行く。
「下げ銭」なんてみっともない真似はしない。
負けたら、大陸に戻って精算すればいいのである。
ところが邵東明は、上海に戻ってから、この「アシ切り」を拒否した。
それゆえ結果的には、『澳門日報』の記事となってしまったのだった。
勝ち博奕(ばくち)に関してはどうあれ、負け博奕の件は、打ち手が別件で逮捕されたり「借金シカト」でもしないかぎり、報道されない。
これは、打ち手側の勝利は「よきパブリシティ」であり、その敗北は「悪しきパブリシティ」である、とする共通認識がカジノ事業者やジャンケット事業者にあるからである。すなわち、負けた打ち手に関する情報リークは、通常ない。
190億円分の借金にシカト。
この金額、およびこれぐらいの社会的・経済的信用度をもつ打ち手への「回銭」は、もちろんジャンケット事業者や金融屋でも、大手しかできない。
この件では、ジャンケット業界最大手のサンシティ・グループ(太陽城集団)が筆頭となった「回銭」だった、とわたしは聞いている。
あまりにも巨大な(博奕による)負債だったので、一括返済でなくて分割返済でも構わない、と債権者側(複数)が邵東明に申し出た。
ところがこの交渉で上海に行った債権者や太陽城集団の幹部数名が、当局によって「一網打尽」に逮捕されてしまった。
中国国内で、「賭博の勧誘」は、刑法犯罪である。
それゆえ、大陸の人間をマカオで賭博するよう中国国内で勧誘したのは、確かに犯罪となるのだろう。
そうではあるのだが、この「一網打尽」の逮捕は、190億円相当の借金シカトを決め込んだ邵東明が、現地の政界・官界に影響力を発揮したからだ、とされている。
そうじゃなければ、地元警察も動かないだろう。
井川意高・大王製紙元会長が、喜連川社会復帰促進センターを出所直後、雑誌インタヴューで、
「シンガポールやマカオでは、長年の経験から強面の人達を使ったりして取立てるノウハウがある」
しかし、
「カジノで遊ぶ中国の有力者は、地元の警察やらを全て押さえていますからね。日本人が返済を迫ったところで相手にされません」
それゆえ、日本でカジノをつくっても失敗する。
と、断言した理由がここにある。
この部分での井川の主張は、おおよそ正しい、とわたしも思う。
「長年の経験から強面(こわもて)の人達を使ったりして取り立てるノウハウがある」連中ですら、債権回収の相手によっては当局によって「一網打尽」とされてしまう。
まして、証券取引監視委員会やカジノ管理機構などの行政や独立機関から厳しい監督を受けるカジノ事業者が、大口の債権回収のために、直接中国に取り立てに行っても、洟(はな)もひっかけられない。
2016年10月には、メルボルンにあるクラウン・カジノの関係者十数名が、15億円相当の賭博債権の回収交渉の件で、やはりあえなく上海で逮捕されている。
中国共産党内部での権力闘争に多分にかかわるとされているが、「蠅も虎も叩く」とする「反腐敗政策」の逆風を、真正面から受けているのが、ここ3~4年の大手カジノ事業者であり、ジャンケット事業者なのである。
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