番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(24)

 BJ(ビージェー。=ブラックジャック)では、ディーラーが手持ちの一枚目のカードをオープンにする。

 このカードのことを、日本の非合法ないしは韓国の公認カジノを除けば、世界中ほとんどのカジノで、「アップ・カード(UP CARD)」と呼ぶ。

 日本や韓国のカジノで使用されている「フェイス・カード(FACE CARD)」とは、どう転んでも呼ばない。

 どうしてこんな明らかな間違いが起きたかについては、容易に想像がつく。

 通常、カジノでは、カードを裏に伏せてある状態を「フェイス・ダウン(FACE DOWN)」、表(おもて)にひっくり返したそれを「フェイス・アップ(FACE UP)」と呼ぶ。

 略してそれぞれ、「ダウン・カード」であり「アップ・カード」だ。

 したがって、BJにおけるディーラーの手持ちの一枚目は、正式には「フェイス・アップ・カード(FACE UP CARD)」と呼ぶのが正しいのだが、長ったらしいので「アップ・カード(UP CARD)」と略される。

 さてここで話は、1968年3月のウォーカーヒル・カジノでのお披露目パーティ後の勝負卓に戻る。

 話が飛んでばかりいるようだが、わたしが語るものは、いつかどこかで繋がるようにできている(笑)。

 バッタまき(=アトサキ)やポン引きないしはホン引き(=手本引き)しかやったことがない日本の打ち手たちに、東声会の若者が、BJやバカラのゲームを説明したのだが、「フェイス・アップ・カード」の略し方を間違えて教えてしまった、とするのがわたしのこの件に関した仮説だ。

 若者たちは若者たちで、事前の講習でしっかりと学んでいたはずだが、そこはそれ、あまり頭脳をつかうことのない筋力派が多い者たちが、いかにも犯しそうな間違いである。

 おそらくこの仮説は、正しい。

 そうでもなければ、ディーラーの手元でオープンとなった一枚目のカードを、なんで「アップ・カード」ではなくて、「フェイス・カード」と日本で呼ばれるようになったのかを、説明できない。もし、これより説得力のある仮説をお持ちの方は、是非ぜひ、ご一報を。

 先に説明したように、日本のアングラと韓国の公認カジノを除けば、「フェイス・カード(FACE CARD)」とは、ジャック・クイーン・キングといった王族の「顔(FACE)」が描かれているカードのことを意味する。

 通常カジノではこれらの「フェイス・カード」を「ピクチャー」とも呼ぶ。カードに数字ではなくて絵が描かれているからである。

「フレーム」と呼ばれる場合もある。その絵が「枠」に囲まれているからである。

「フェイス・カード」は、北米のカジノでは、なぜか「モンキー」とも呼ばれている。

 これは、ジャック・クイーン・キングの「君主制」を意味する“MONARCHY(モナキー)”という英単語が、砂漠を渡ってラスヴェガスに到着するまでに“MONKEY(モンキー)”に化けたからである、という説が有力だ。

 日本の打ち手たちの多くが犯す、「バースト(BURST)」や「ピット・ボス(PIT BOSS)」という用語の誤使用については、前項でわかりやすく説明したと思う。

 それら以外にもいろいろと、珍妙な「和製カジノ英語」が横行する。

 現在に至るまで、日本には非合法のカジノしか存在しなかったので、珍妙なターミノロジー(=専門用語)の横行は、ある意味宿命的なものなのかもしれないけれど、やはり是正できるものは直していくべきである、とわたしは思うだ。

⇒続きはこちら 番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(25)

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PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。